川上ミネさんが2005年から京都で毎年9月に行っているピアノリサイタル。会場は、あの清水の舞台だ。リサイタルをしたいと何度も頼み込んでようやく許可されたとき、清水寺の貫主と約束したことがある。

「何百年も前に伐られた木が今も寺を支えているというのは、木のなかに人の“気”――物の思い出や、描いていた夢が宿っているからだ、と。良い音楽は間違いなく寺そのものを長生きさせるはずだから、そのために弾くのであれば、と言われました」

 昨年、私は初めて京都に赴いた。リサイタルが始まるとともに降り始めた雨の中で、演奏が始まった。ピアノの音と、雨音と。リサイタルの半ば、ミネさんが「次の曲は、好きな場所で聴いてみてください」と観客に声をかけた。え、リサイタル中なのに席を立ってもいいの?

 場所も異例ならば、進行も異例。だけどワクワクするような体験だった。ふたたび席に戻り、やがて最後の1曲が始まったときに一匹のスズムシが鳴き始めた。ピアノの音を追いかけるように。

 ところで、リサイタルのときに譜面台に置いてあったのは、曲順を書いたメモ一枚だったらしい。自分が書いた曲なので、すべて頭に入っているため譜面はいらないのだそうだ。だから、どこでも、いつでも弾くことができる。

 そう、ミネさんはどこでも弾くことをいとわないピアニストだ。2月に行われたYOUR EYES ONLYの2周年パーティーでは、求めに応じて「では今夜のパーティーの様子を」と言って即興でキーボードを弾いてくれた。おとなしい曲調から一転、ラテンのリズムに変わると、会場がどっと湧いた。

「ソナタ 侍」を弾くときも、即興の音楽を弾くときも、ミネさんのピアノは、まるで本人が話しているかのように聴こえる。とくにラテンピアノはスペイン語(もしくは関西弁)で喋っているかのよう。口調や声の大きさを変えるように変幻自在なのだ。

 撮影のため、ミネさんが透明なピアノを弾いていると、カワイの調律担当の方が出てきて「このピアノをこのような音で弾く人は初めてです」と驚いた。たくさんのピアノが並ぶショールームで、ミネさんに弾いてもらったピアノは幸せだったかもしれない。

 さて、スペインと日本、それぞれを拠点に世界の各地で活動を続けるミネさんだが、今年はどんな場所で演奏する予定だろうか。

  • 出演:川上ミネ

    ピアニスト・作曲家。ドイツ・ミュンヘン国立音楽大学ピアノ科卒業。スペイン・マドリッド王立音楽院ピアノ科卒業。元キューバ国立音楽大学講師。京都とマドリッド(スペイン)に拠点をおきながら日本・スペインを中心に世界各国において演奏・作曲活動を行っている。2004年にはグラミー受賞ピアニスト、チューチョ・バルデスと共演し、キューバで大成功を収めた。日本においても05年、“愛・地球博”のオフィシャルマスコット「モリゾーとキッコロ」のテレビアニメの全ての音楽制作を務めるなどの事業に参画。2013年には日本スペイン交流400周年記念事業の公式テーマ音楽担当として公式オリジナルテーマを作曲し、日本スペイン交流400周年開幕記念式典での芸術監督を務めた。この音楽会はスペイン全国に於ける「国が最も推薦するコンサート」として、全国公立劇場のネットワーク(La red de teatros nacional=通称ラ・レッド)に推奨された。NHK Eテレで放送中の「猫のしっぽ カエルの手 京都 大原 ベニシアの手づくり暮らし」の音楽を担当、その楽曲を収録した4枚目のソロアルバム『馨(かおり)』(10年)は、自然と共に生きるベニシアさんのライフスタイルに溶け込むような曲ばかりが収録されている。また、13年公開の映画『ベニシアさんの四季の庭』のサウンドトラックをピアノ一台で仕上げたことも話題になった。14年3月11日には世界遺産であるスペイン・コルドバのメスキータ「聖マリア大聖堂」にて祈りのコンサートを開催する。ボリビアなど南米を中心に音楽を通して国際交流する演奏活動も展開している。

    MINE KAWAKAMI ホームページ
    http://www.minekawakami.com
    日本スペイン交流400周年開幕記念音楽会(日本スペイン交流400周年公式サイト内)
    http://www.esja400.com/jpn/今井翼×サムライ支倉 大いなる旅への挑戦

  • 取材・文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。
    https://www.facebook.com/mi.company

撮影協力:カワイ表参道 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
撮影:萩庭桂太