ビルボードライブでは、松下奈緒が女優として出演したドラマ『タイヨウのうた』の挿入歌「Wish」も歌われた。松下が劇中で歌ったラヴバラードだ。

 2014年、松下は女優デビュー10周年を迎えた。

「2004年に女優デビューした時は、今のようなスタイルで女優と音楽家を続けている自分をまったくイメージできませんでした。10年後も音楽を続けていたい。女優もやっていたい。ただ、それだけでした」

 10年をふり返ると、いくつものハードルを越えてきた。

 その中でも最も大きな転機になったのは、やはり2010年に主演したNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』だという。

「まず何よりも、日本中のかたがたに顔と名前を憶えていただけました。そして、女優という仕事との向き合い方も大きく変わった作品でした」

 それまでも、目の前にある仕事に、誠実に、一所懸命取り組んでいた。しかし、『ゲゲゲの女房』以降は、自分の思う芝居を周囲に伝える積極性が生まれたという。

「あの朝ドラ以前は、何か見えない目標に向かって努力をしていた気がします。だから、現場での指示に対して、内心自分の意見を持っていても、言われるままに演じていました。“一歩前に進む”という意識が希薄だったのでしょう」

 しかし、自分の意見を言えるようになった。

「ごめんなさい。今のシーン、もう一度やらせてください」

 その言葉を言えるようになったのは2010年の朝ドラ以降だという。

「この言葉を発するのはすごく勇気がいるんです。撮影というのは自分一人ではありません。撮り直しをすれば、スタッフだけでなく、共演者のかたがたももう一度やらなくてはいけません。しかも、やり直して、必ずしももっとうまくいくわけではありませんし」

 それでも、思い切って言えた。

 言ったことによって、自分の演技への責任を覚えた。

「どうしてやり直したいか、できるだけ具体的に、正直に伝え、理解をいただきました。あの時から女優として、新しい一歩を踏み出せた気がしています」

 女優、ピアニスト、ヴォーカリスト……。

 今、松下の頭の中ではどういうバランスになっているのだろう?

「バランスに関しては、流れに任せています。女優のお仕事のときは、その役に120%集中する。レコーディングやライヴでは音楽に120%集中する。それぞれの仕事を無理に融合させようとか、逆に切り離そうとか、考えたことはありません。ライヴをしている今は120%音楽家です(笑)」

『WOMAN』

発売中(2013年10月9日発売)
CD 3,000円+税 ESCL-4113
http://www.sonymusic.co.jp/artist/matsushita-nao/discography/ESCL-4113

  • 出演:松下奈緒(まつした・なお)

    ピアニスト、シンガー、女優。1985年兵庫県出身。2004年東京音楽大学器楽科在学中に、ドラマ『仔犬のワルツ』で女優デビュー。10年NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主演で国民的女優となる。そのほかに『Good Job~グッジョブ』『CONTROL~犯罪心理捜査~』『胡桃の部屋』『二十四の瞳』『花の鎖』などで主演。音楽家としては、06年にアルバム『dolce』でデビュー。最新作は、富士通ゼネラルエアコンCMソング「永遠のハジメマシテ」やフジテレビ系連続ドラマ『鴨、京都へ行く。-老舗旅館の女将日記-』挿入曲「ホントのひかり」、などを収録した『WOMAN』(エピックソニー 3000円+税)。
    http://www.matsushita-nao.com/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影協力:ビルボードライブ東京 http://www.billboard-live.com/
ヘアメイク:YONE
撮影:萩庭桂太