八神さんが作る歌は、愛や命を讃える詞が多い。

 2月に発売になる「チョコと私」は、長年飼っていたイヌの“チリ”が亡くなり、ペット・ロスをテーマに作った曲だ。

「チリはベルギーのブービエ・デ・フランダースという犬種で、真っ黒でおっきなイヌでした。人間が大好きで、特に子どもが大好きなやさしいイヌ。おっきいから、病気になったとき、私が持ち上げられないのが哀しかったな。ペットの命の重さは人と同じであってほしいけど、そうじゃないのが現実。私と同じように癒えない寂しさをもっている人たち、命の尊さを感じている人たちと気持ちをシェアできたらいいなと思います」

 NHK『みんなのうた』で流れる映像にも、こだわった。音作りに関しても歌詞と曲のリズムがぴたりと合うようにと心を砕いた。

「今はどこででも音楽を聴くことができて、何かをしながら音楽を流すという人が多いかもしれない。それはそれでいいことだけれど、私のファンの人たちはきっとじっくり聴いてくださると思って。そういう風に聴いてくださる方を思って、こだわって作りました」

 命を失う悲しみと、そこからまた生きていく人の思いが伝わってくる歌だ。

「命を歌っている人はいっぱいいるけれど、私は『今を生きる』というテーマで曲を書きたい。一生懸命生きていても、命はある日簡単に取り上げられてしまう。私たちはみんな消え去ってしまう存在ですから。先の心配をするのは、ネガティブ。この日、このときを思いきり生きる。それを繰り返すことが幸せな人生につながっていくと思うんです」

 初めて暮らす異国の地で、妻として母親としてだけ頑張ってきた八神さんのことをふと想像した。

 彼女はきっと歌うことと同じように、いつも一生懸命自分を生き切ってきたに違いないと。

 今年もすでに歌うスケジュールはいっぱいのようだ。大きな会場だけでなく小さな所にも足を運ぶそうだ。

 あの透き通った歌声を、今、浴びることができる。その幸せを感じながら、私も今を生き切ろう。

  • 出演:八神純子

    愛知県生まれ。1978年に「思い出は美しすぎて」でプロ・デビュー。同年、同タイトルのアルバムがオリコン5位になる。その後「みずいろの雨」などヒット曲を連発。86年に音楽プロデューサー、ジョン・スタンレー氏と結婚、2児の母となる。2010年頃から本格復帰の呼び声が高まり、11年にSHIBUYA-AXで10年ぶりのライブを行った。2月からNHK『みんなのうた』でオンエアされる「チョコと私」が2月26日(水)にリリースされ、3月30日(日)、31日(月)には東京・コットンクラブを皮切りに大阪、名古屋、横浜で後藤次利、松原正樹、村上秀一、佐藤準という錚々たるメンバーとライブハウスのツアーを再開する。
    http://junkoyagami.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太