一浪で予備校に通うために上京。姉と下宿することになった。

「東京って四六時中、なんて眩しいところなんだろうと思いました。夜が夜じゃない感じがするじゃないですか。でも姉と住んだのは相模原市。土地勘がまったくなくて、最初、友達にハガキを書くときに『東京都相模原市』って書いていました」

 浪人するということは、学歴の真ん中のレールを走ってきた彼女にとってひとつの挫折だった。

「履歴書にダメな行がひとつできた感じ。だから大学に合格したときは嬉しかったですねえ」

 トランポリン同好会に入り、レオタードを着て試合にも出た。でもある日、看板を見てやりたかったことをひとつ思い出した。

「小学校のクラス会の出し物でお芝居をやったんですね。脚本書いて主演・演出して。それがすごく楽しかったことを思い出したんです。ある演劇サークルの人たちが『来週から公演』という看板をあげていて、私、これに出たいんですけど、と思わず言っていました」

 小さなサークルの劇団で、その次の公演には出してもらえた。その人たちが「ここも面白いよ」と、あちこちの劇団を教えてくれた。

「その中のひとつが今の劇団(カムカムミニキーナ)。オーディションを受けて、入ったんです。常にエネルギーを求めるところで、根性叩き直された。見た目も学歴も関係ない。ひと通り、そこでそれまでの自分を一回否定されました。それでも居場所として私には大事だったんです」

 様々なバイトをしながら在団費を払い、卒業しても、劇団には居続けた。プールの指導員、ウエイトレス……。多業種の仕事をやったのは自分の演技の引き出しを増やしたかったからという思いもあった。ところがある日突然、劇団から戦力外通告を受けることになる。

「ちゃんと社会に出たことがなかった。居れば舞台には出られるし、あったかい。それがなぜかある日突然、厳しくなって『全員出られるわけじゃない。辞めろ』という通知がプリントされた紙で届いたんです。たくさんの人が辞めましたけど、私はどうしても居させてください、と。出られないところからもう一回返り咲くためには、とにかく辞めてはいけないと思いました」

 純粋過ぎる負けず嫌い。彼女の目が真剣に語り始めていた。

  • 出演:米田弥央

    1978年富山県生まれ。早稲田大学理工学部在学中から劇団に所属、多くのバイトを経験しながら女優に。現在はタレントとしても活躍中。NHK総合「スタジオパークからこんにちは」(月~金曜日13:27~)“特ダネ”ハンターとしてレギュラー出演中のほか、BS日テレ「ふたり道」(木・金曜日21:54~)、ロート製薬「メンソレータムAD乳液」CMなどが好評。
    公式HP http://www.lotstaffs.jp/mioyoneda.html
    ブログ「ダジャレの品格」 http://blog.livedoor.jp/mio1215yoneda/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:茂手山貴子 http://moteyama.com/
撮影:萩庭桂太