米田弥央の富山での高校時代。恋愛はひとつのブームのようになっていた。誰かが誰かに告白する。それはひとつのイベントだった。

「体育祭が終わると何組かカップルができていました。友達がみんな、誰が好き、という会話ばかりしている。私は全然興味がもてなかった。でも『誰が好き?』と聞かれると負けず嫌いから思わずある野球部の人の名前を出してしまったんです。……ただ、あるとき、彼がグランドに体育座りして先生を見上げていて、その横顔が夕日を浴びてきれいだった。それだけの理由で」

 彼女は、部活終わりのいが栗頭の彼を呼び出した。

「好きながいけど、つきあってくれんけー」

「いいよ」

 その日から、付き合いは始まった。優しくて常に誰かが周りにいるような男性だった。「一緒に帰ろう」「一緒に通学しよう」「お昼食べよう」。帰宅したら「彼から電話よ」。ちょっと聞けば熱愛中に聞こえるが、ついていけなかったのは、彼女の気持ちだった。

「一週間続いて、もうずっと一緒なことに私が耐えられなくなって。付き合うのってこんなに大変なのと思って。『別れてくれんけー』と言ったら、もう翌日から学校中が私のアウェイになってしまいました。『米田、ひでえな』と。でも一週間のストレスに比べれば、一人でも全然平気でしたね。恋愛はもういいな、と思いました」

 自分から誰かを好きになったのは、それから10年以上経った後のことだった。

「28歳のとき、自分から初めて人を大好きになりました。結局、それまでは自分のことが一番好きだったんでしょうね」

 悪びれず、正直過ぎる目で笑った。

  • 出演:米田弥央

    1978年富山県生まれ。早稲田大学理工学部在学中から劇団に所属、多くのバイトを経験しながら女優に。現在はタレントとしても活躍中。NHK総合「スタジオパークからこんにちは」(月~金曜日13:27~)“特ダネ”ハンターとしてレギュラー出演中のほか、BS日テレ「ふたり道」(木・金曜日21:54~)、ロート製薬「メンソレータムAD乳液」CMなどが好評。
    公式HP http://www.lotstaffs.jp/mioyoneda.html
    ブログ「ダジャレの品格」 http://blog.livedoor.jp/mio1215yoneda/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:茂手山貴子 http://moteyama.com/
撮影:萩庭桂太