川村結花さんが育った河内長野市は大阪府の中でも郊外と言っていいだろう。

「生まれのは阿倍野区なんですけどね。一人っ子で、6歳から母親にピアノを習わされました。電車に乗って行ってましたね。地元の音大に行くのが一番偉い、というような雰囲気。私は演奏で派手な表現をするのが苦手で、手を振り上げて頭振って弾く子を見ると、さむいな……、と思っていました(笑)。ただ最初から聴音できて、メロディにコーラスつけられました。クラシックの曲は長くて嫌いだったけど、思いついたメロディだったら何時間でも弾いていられるなと」

 それでも東京芸大受験時にはソナタ形式の楽曲を作曲した。3~4年生では課題の交響曲も書いた。でもやっぱり「歌」が好きだった。

「与謝野晶子の『月見草』という歌に曲をつけて歌ったんです。そうしたら『一回聴いて忘れられないフレーズをつくるのは天才だよね』と言われた。私、やっぱり歌しか好きじゃないんだな、と思った。場面を切り取ったような曲やインストゥルメンタルは得意じゃない。山口百恵とか聴いて育ったから、楽曲にストーリーやドラマを求めてしまうのかもしれません」

 芸大には居場所がないと感じ、友達の誘いで早稲田大学のモダンジャズ研究会に所属した。

「新歓コンパに行ったら、そこのアルトサックスの男性がかっこよくて、こんな人がいるなら入ろう、と思ったんです。不純な動機で、ここになら青春があるかも(笑)、と。青春……ありました! 恋愛も友情もあった。今回出した新しいアルバムの中の『君はきっとだいじょうぶ』は、当時くらった失恋がもとになっている歌です。最近になって同窓会があったんですが、終わってから後輩たちとべろんべろんに酔っぱらってる演奏の音源を送られてきて、真っ青になって心がワープしてこの曲ができたんです。曲が迎えに来るとき、って、そのテンションだったり、匂いだったり、温度だったりが実感できるときなんですよね。歌ができて本当によかったけど、あの音源は封印してもらおう(笑)」

 ちなみに「曲が迎えに来る」というのは、多くのミュージシャンが「曲が降りてくる」ともよく言うその瞬間のことらしい。

 新しいアルバムは『private exhibition』。個展、である。相当生々しい、いわゆる私小説的な歌が並んでいる。

  • 出演:川村結花

    大阪府生まれ。1995年よりシンガーソングライターとして活動を開始。自らピアノの弾き語りライブを続けながら、他のアーティストへの楽曲提供を数多く行う。2010年、FUNKY MONKEY BABYSに提供した「あとひとつ」で、同年の日本レコード大賞作曲賞受賞。新譜『private exhibition』のリリース記念ライブを2月16日(日)札幌・KRAPS HALL、2月23日(日)東京・南青山MANDALA、3月1日(土)静岡・常林寺白龍観音堂ホール、3月9日(日)大阪・Music Club JANUSで行う。
    http://www.kawamurayuka.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太