2013年は後半になって急激に上り調子になった1年だったという。裏を返せば、年の初めは「他人から見ればどん底」の状況だったらしい。マネージメントは自分が頼り、舞台のチラシ配りもした。いわば原点に戻ったともいえる。しかし、なんとか抜け出したいがままならない。

「まわりを変えるためには、まず自分から変わらなければいけないと思って、生活のリズムを大切にするようになりました」

 母のすすめで毎朝アサイードリンクを飲むようになった。ひとつずつ自分のルールを決めることで、生活のリズムが整いやすくなったという。

 2年前から始めたホットヨガが、心と体のバランスを調えてくれることもわかってきた。深い呼吸でネガティブな気持ちを吐き出す。新しい仕事に入る前に良いイメージを思い描くと、気持ちを集中することができる。また、体にとっても、エクササイズやマッサージとは違った効果が感じられるそうだ。

 30歳になって、ボランティア活動も始めた。いくつかの経験を重ね、相応の年齢になったいま「ひとりの人間として何ができるか」を考えた。

 その結果、チャイルド・スポンサーシップという活動に参加して、貧困によって未来を奪われている子どもを支援することにした。

「一日150円、毎月4,500円で1人の子どもを救うことができます。わたしが支援しているのはカンボジアの女の子です。将来の夢は歌手だというところはわたしと同じですね。4カ月に一度、手紙で交流しているのですが、いつかは現地に行って直接会ってみたいと思っています」

 これからは、こうした支援を広げるための活動もしていきたいと言う。子どもの成長を見届けるとともに、自分自身も成長していきたい。まさに情けは人のためならず、ですね。

 新しい事務所に所属するなど、今年の秋には仕事の環境が大いに変わった。まじめに、地道に活動していたことが認められてうれしいと語る横顔は、希望に満ちている。

「2014年のテーマは『しなやかに、ゆるやかに、おだやかに』。あせらずに、楽しく仕事に邁進したいと思います。好奇心を大切にして、自分に飽きずに、新しい自分を皆さんに見せていきたいですね。そして、今まで出会った人に恩返しをしたい」

 女優であれ、モデルであれ、自分は表現者だとやっと気づいた。

「頭の上の重たいものをおろして、自由に羽ばたいていきたい」

 他人の言うことよりも自分の心の声を聞く。そんな心境にようやく至った。そう、表現者はもっとわがままでいいと思う。

 新しい「松本莉緒」はまだスタートしたばかり。これからどんな魅力を発揮してくれるのか、楽しみに見守っていきましょう。

  • 出演:松本莉緒

    1982年東京都出身。94年、11歳の時に原宿でスカウトされ芸能界入り。グラビア、CMなどに多数出演。95年、日本テレビ系『終らない夏』でドラマデビュー。その後は、『ガラスの仮面』や『聖者の行進』(野島伸司脚本)など多数出演。若手実力派女優として着実に名声と実力を積み重ねていった。97年には「ビクター・甲子園ポスター」キャンペーンに、キャンペーン史上唯一の現役中学生のモデルとして選ばれた。2002年女優・タレントとして復帰。同年4月、『ゴールデンボウル』(野島伸司脚本)に復帰後ドラマ初出演。04年ミュージカル『HEART of GOLD』で歌手デビュー、05年映画『東京フレンズ』、10年ドラマ『モテキ』出演。さらにファッション雑誌「Ray」「Fine」の表紙モデルを務める。2013年は舞台『パニ☆ホス』にて主演を務めた。女優、モデル、タレントとして活動中。

  • ヘアメイク:西田裕美子

    数店舗の美容室で経験を積んだ後2002年にヘアメイクに転向、ヘアメイク事務所Deuceに所属。やさしい人柄であたたかく誠実な仕事ぶりには定評がある。女性らしく明るい、透明感のあるメイクが得意。現在CDジャケット、PV、TVやショーを中心に活躍中。
    https://www.facebook.com/yumikonishida.deuce

  • 取材・文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。

撮影:萩庭桂太