11月26日(火)。この夜は東京丸の内のコットンクラブで、セシル・マクロリン・サルヴァントのソロ公演が行われた。

 1曲目は、スタンダードナンバーの「イエスタデイズ」。

 セシルは胸の前でマイクを両手で愛おしそうに握り、口からの距離を微妙にコントロールしながら歌い上げていく。

 歌詞のひとつひとつの単語を大切に発音する。

「偉大なるジャズシンガー、カーメン・マクレイさんも言っていたそうですが、歌というのは、歌詞がまず大切。最初に言葉があって、その言葉や物語をリスナーに伝えるためにメロディーがある。歌詞に重きを置いて歌うと音楽が描く世界がさらに広がっていきます。私はこれからも、歌詞、つまり言葉を大切に大切に歌うシンガーであり続けたい」

 この夜のショーでは、アルバム『ウーマンチャイルド』から2曲が歌われた。文学的なタイトル曲の「ウーマンチャイルド」と、身体全体を楽器のように鳴らす「月光のいたずら」だ。

「ウーマンチャイルド」は、CD同様歌詞の1語1語を大切に歌った。
「月光のいたずら」は、CDよりも声量を抑え、地の底からわき上がるようなアプローチで聴かせてくれた。

 女性ジャズシンガーには、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレイ……と続く王道の系譜がある。豊かな声量、広い声域、精度の高いピッチ、豊富なフェイクなどを持つ“選ばれし者”だけが目指せる領域だ。

 現在活躍するシンガーであげるとすれば、すでにベテランの域にあるダイアン・リーヴスだろう。

 そのダイアン・リーヴスの登場から約30年ぶりに現れた王道の系譜にいるシンガーが、セシル・マクロリン・サルヴァントなのである。

『ウーマンチャイルド』

発売中(2013.07.24発売)
CD 2,000円+税 VICJ-61688
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A024448/VICJ-61688.html

  • 出演:セシル・マクロリン・サルヴァント

    ジャズシンガーソングライター。米フロリダ州マイアミ出身。ハイチ人の父親とフランス人の母親の間に生まれる。幼い頃から声楽とピアノを学ぶ。2007年にフランスのエクサンプロヴァンスに移り住み、ジャズも学び始める。2009年にフランスで、アルバム『セシル』を発表。2010年に米ワシントンDCで開催されたセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペディションに出場し、ジャズヴォーカル部門で優勝した。最新アルバムは『ウーマンチャイルド』(ビクターエンタテインメント 2100円)。
    www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A024448.html

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影協力:コットンクラブ http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/
撮影:萩庭桂太