セシル・マクロリン・サルヴァントは、デビュー前にも1度、日本のオーディエンスにその声を聴かせている。

 2012年秋、アルトサックス奏者、渡辺貞夫のショーのゲストとして来日して歌っているのだ。その滞在で、彼女は日本が大好きになった。

「貞夫さんのバンドでは、東京、浜松、仙台で歌いました。その土地その土地のおいしいものを食べることができて、とても楽しかった。私は、ご飯、焼き魚、味噌汁、漬物という日本の伝統的な朝食が大好きです」

 特にお気に入りなのは、焼き鳥。渡辺貞夫の友人にアテンドされた店で食べたのだという。

 店の場所を訊ねると――。

「シンジュクのオモイデヨコチョウというエリアです」

 なんと新宿西口の思い出横丁に連れて行かれたらしい。戦後の闇市の風情を残し「やきとり横丁」とも「ションベン横丁」とも呼ばれるエリアだ。日本人の若い女性はあまり寄りつかないところだ。嫌ではなかったのだろうか――。

「すごく気に入りました。あの思い出横丁で食べた焼き鳥のおいしさは忘れられません! 時間が許せばまた行きたい」

 セシルの今回の来日は、デューク・エリントン・オーケストラのゲストとして青山のブルーノート東京で2日間4公演、1日おいてソロで丸の内のコットンクラブで3日間6公演。1週間ほどの滞在だった。

「日本の滞在は快適です。トイレですら楽しい。何しろ水が出てお尻を洗ってくれるんですから。次回はもっと長期間滞在したい」

『ウーマンチャイルド』

発売中(2013.07.24発売)
CD 2,000円+税 VICJ-61688
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A024448/VICJ-61688.html

  • 出演:セシル・マクロリン・サルヴァント

    ジャズシンガーソングライター。米フロリダ州マイアミ出身。ハイチ人の父親とフランス人の母親の間に生まれる。幼い頃から声楽とピアノを学ぶ。2007年にフランスのエクサンプロヴァンスに移り住み、ジャズも学び始める。2009年にフランスで、アルバム『セシル』を発表。2010年に米ワシントンDCで開催されたセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペディションに出場し、ジャズヴォーカル部門で優勝した。最新アルバムは『ウーマンチャイルド』(ビクターエンタテインメント 2100円)。
    www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A024448.html

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太