音楽はリリースと同時にリスナーのものになる
セシル・マクロリン・サルヴァント
- Magazine ID: 1365
- Posted: 2013.12.11

今回セシル・マクロリン・サルヴァントを取り上げることになったのは、ニューヨークの名門ジャズクラブ、ブルーノートのスタッフ、セイコ・ローゼンさんからの1通のメールがきっかけだった。
セイコさんは1990年代前半にブルーノート福岡のスタッフとして働いていた女性で、90年代後半に渡米、本家のスタッフとして採用された。アメリカの音楽シーンに精通する彼女は、ニューヨークの新しい情報を頻繁に送ってくれる。
そのセイコさんからハイテンションのメールが届いたのだ。
「久々に心躍る大注目の新人アーティストに出会ったので連絡しました。セシル・マクロリン・サルヴァントという女性シンガーです。2009年のセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションのジャズヴォーカル部門で優勝して、名トランペット奏者、ウィントン・マルサリスのエージェントに所属しています。すぐれた歌唱力をもつだけではなく、往年の女性ジャズシンガーを思わせるオールドソウルと、今の若いアーティストならではの感性を矛盾することなく併せ持っています。ヴィジュアルも個性的なメガネをかけて知的です」
このメールを読み、さっそくアルバム『ウーマンチャイルド』を手に入れた。
セシルのシンガーとしての素晴らしさはすでに書いた通りだが、歌詞の文学性にも驚かされた。
特にアルバムタイトル曲の「ウーマンチャイルド」は、ためらい、よろめき、それでも少しずつ成長する少女が詩的に描写される。
「『ウーマンチャイルド』は私自身のことを歌詞にして歌いました。でも、歌というのは、実際に歌うことによって、作り手である私のもとを離れて、リスナーのものになり、一般性を帯びてきます。この曲も、自分のことを書いた歌詞だったはずが、やがて今の若い女性を思って歌うようになりました」
アルバムの後半に収録されているハリー・M・ウッズの「月光のいたずら」では、自分の身体を楽器的にあやつり、ソプラノサックスのような音色を楽しませてくれる。特に後半部は、歌うというよりも身体を鳴らしているように聴こえる。
高音で歌い上げるエンディングには胸が震えた。
『ウーマンチャイルド』
発売中(2013.07.24発売)
CD 2,000円+税 VICJ-61688
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A024448/VICJ-61688.html
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出演:セシル・マクロリン・サルヴァント
ジャズシンガーソングライター。米フロリダ州マイアミ出身。ハイチ人の父親とフランス人の母親の間に生まれる。幼い頃から声楽とピアノを学ぶ。2007年にフランスのエクサンプロヴァンスに移り住み、ジャズも学び始める。2009年にフランスで、アルバム『セシル』を発表。2010年に米ワシントンDCで開催されたセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペディションに出場し、ジャズヴォーカル部門で優勝した。最新アルバムは『ウーマンチャイルド』(ビクターエンタテインメント 2100円)。
www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A024448.html -
取材・文:神舘和典
1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。
新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
撮影:萩庭桂太