釜山国際映画祭2013で上映された富名哲也監督作品『終点、お化け煙突まえ。』は、映画祭の公式ホームページには「……原発の汚染に苦しむ人々の不安が見え隠れする」といったコメントが添えられていた。

「ロケ地となった足立区の千住の、役者以外に誰もいない雰囲気が、震災で人が消えてしまった実在の場所と、かぶるものがあったのかもしれませんね。ぼくはそのことを意図したわけではありません。でも、原発問題のニュースを見たりするなかで、奥底にそんな不安を抱えていて、それがにじみ出たということはあるかもしれません」

 約20分のショート・フィルムというのは、時にとても哲学的だ。ともすれば、その受け取り方はロング・フィルム以上の幅広さをもつ。

「ショート・フィルムは時間が短いだけに、簡単なオチがついてしまいがちな傾向があるのだけれど、この作品は見る人によっては色々な意見を持ってもらえるような、観客に答えをゆだねるような開かれたものにしたかった。まさに、見る角度によって色んな顔を持つ“お化け煙突”のようにですね」

 赤、緑といった色によるメタファー。裸電球などを用いた照明のゆかしい表現力。そして音響へのこだわり。次は長編を、と期待が募る。

「自分のオリジナル脚本で撮りたいと思っています。以前は夢物語が多くて地に足がついてなかったのですが、今はこの作品が出来て、向かって行く方向が少し見えて来た感じがしています。今、書き溜めたものが4~5本あるのですが、いつか、母をテーマにしたものも一本撮りたい」

「一番撮りたいもの」は一番熟成させたいものなのだろう。母、と口にしたときの彼は照れくさそうな、でも、とてもやさしい顔をした。

  • 出演:富名哲也

    映画監督。北海道釧路生まれ。1995年、大学卒業後に留学のため渡英。ロンドン・フィルム・スクールにて映画製作を学ぶ。1999年、同校で監督・脚本した作品が、BBC主催の映画祭にてBEST部門に選出され、他多数の世界中の映画祭に招待される。2001年に帰国。結婚後、2013年春に夫婦で製作した『終点、お化け煙突まえ。』(英題“At the Last Stop Called Ghost Chimney”)が、アジア最大の映画祭、第18回釜山国際映画祭のコンペ部門に正式招待される。2013年11月にスペインで開催される第55回ビルバオ国際映画祭では、応募総数3367作品からコンペ部門に選出されるなど、海外の映画祭に次々と招待され、今後、世界での活躍が期待されている。
    http://TETSUYAtoMINAfilm.com

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太