釜山は、想像していた街とはまったく違った。

 漁港をイメージしていたが、そこにはまるで6月に行ったスペインのマラガのような、美しいビーチのあるリゾートが存在していた。

 18年目を迎える釜山映画祭はものすごい人、人、人で盛り上がっていた。その日は開幕式が開催され、富名哲也監督もレッドカーペットを歩くという。

 おそらく1万人以上の観衆がいたのではないだろうか。それを見るだけのチケットはネットに出るやいなやわずか43秒でソールドアウトしたらしい。

 韓国の役者を中心に、ヨーロッパからも役者や監督が大勢来ている。日本からは前田敦子が、福山雅治が、オダギリジョーが、真っ赤な絨毯の上を歩いた。

 我々は時間的に富名監督が歩くのを見ることができなかったが、イベント直後、監督に感想を聞いた。

「アジアで一番大きな映画祭ですからね。レッドカーペットを歩くのは、やっぱり気持ちいいものでしたよ。もの凄い数のフラッシュがたかれカーペットに足が着いてない感じでフワフワしていましたね」

 短編映画では日本からこの作品だけ。選ばれたときは、どんな気持ちだったのだろう。

「招待が決まったというメールが来た時は正直、不思議な感じでした。この作品のプロデューサーでもある妻と顔を見合わせ、ほんとに決まったの? って。だいたい、応募の締切りギリギリで送ったので、作品のDVDが国際便ということもあり、ちゃんと届いたかどうかも不安だったくらいでしたから」

 正直、監督はまだ映画祭のオープニングセレモニーの華やかさに興奮冷めやらぬといった表情だった。

 その夜から、富名監督チームと我々は、アン・ドンギュさんに連れられて夜な夜な映画人のパーティーを深夜まではしごした。

 ヨーロッパの映画祭でも高い評価を受けているキム・ギドク監督と2ショットに収まった富名監督は少年のように握手を求めていた。

  • 出演:富名哲也

    映画監督。北海道釧路生まれ。1995年、大学卒業後に留学のため渡英。ロンドン・フィルム・スクールにて映画製作を学ぶ。1999年、同校で監督・脚本した作品が、BBC主催の映画祭にてBEST部門に選出され、他多数の世界中の映画祭に招待される。2001年に帰国。結婚後、2013年春に夫婦で製作した『終点、お化け煙突まえ。』(英題“At the Last Stop Called Ghost Chimney”)が、アジア最大の映画祭、第18回釜山国際映画祭のコンペ部門に正式招待される。2013年11月にスペインで開催される第55回ビルバオ国際映画祭では、応募総数3367作品からコンペ部門に選出されるなど、海外の映画祭に次々と招待され、今後、世界での活躍が期待されている。
    http://TETSUYAtoMINAfilm.com

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太