澄んだ歌の奥にあるもの
大貫妙子
- Magazine ID: 1322
- Posted: 2013.09.24
8月の終わり。萩庭桂太と私は、池上本門寺で行われるという、野外でのオムニバス・コンサート「Slow Music Slow LIVE ’13」を取材しに行った。3日間にわたるこのコンサートは、今年10年目を迎えるという。当日は夕方前に例の豪雨が降った。我々が到着した時間には雨は上がっていたが、20人以上のスタッフが手に手に紙おむつをもって、座席の水を必死に拭っていた。なるほど、吸った水を戻さない紙おむつは、雑巾よりもよほど効率的だ。スタッフの尽力の末、コンサートは無事始まった。
コトリンゴ、畠山美由紀、アン・サリーが登場した後、もちろんトリの「大貫妙子」だ。
緑が多く、足元は土。雨上がりの境内は、それまでの夏が嘘のように涼しい風が吹いた。
大貫さんの澄んだ歌声が微風とともに吹いてくるようだ。
「子どもの頃、蚊に刺されたときに十文字に爪で跡を入れなかった? そんなことをしたのは東京の子どもだけだったのかな……」
そんなことを、ステージから訥々と語りかけながら、彼女は歌った。
おかっぱの頭。華奢なからだ。すっと伸びたきれいな姿勢。
作らない、中低音の歌声が心にまっすぐ入ってくる。
ラストにはアン・サリー、畠山美由紀と3人で『新しいシャツ』を歌った。
「怖いわよね、この3人でこんな歌は」
そう言って笑った。
去っていく男性を静かにでもそこから動かず見送る、歌。
純粋に愛する気持ちは、誰にも止められない怖さを湛えている。
私はそこにおそらく1000年以上前から変わらない日本の女の色気を見るような思いがした。
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出演:大貫妙子
1953年東京都生まれ。特攻隊だった父親をもつ家庭に育ち、1973年、山下達郎らとシュガー・ベイブを結成。76年からソロ活動を開始。多くのヒット曲を作詞作曲し、98年、映画『東京日和』で第21回日本アカデミー賞最優秀音楽賞受賞。音楽生活40周年となる今年は、10月末に新潮社からエッセイ『私の暮らしかた』を発売。11月には鎌倉、名古屋、大阪などでライブを行い、トリビュートアルバムも発売される。
http://onukitaeko.jp -
取材・文:森 綾
1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810
ヘアメイク:茂手山貴子 http://moteyama.com/
撮影:萩庭桂太