田代万里生はピアノ講師である母親のもとで3歳からピアノを学び、7歳からバイオリン、13歳からトランペットを始めた。その後、声変わりを待って、15歳から、テノール歌手である父親のもとで声楽を学び始めたのだという。絵に描いたような美しい生い立ちだ。

 しかし歌舞伎役者さんのインタビューをしていても、反抗期のある人は多い。辞めたいとか嫌だとか思ったことはなかったのであろうか。

「声楽を嫌いになる、という発想はなかったですね。両親がやってきた正統なクラシックというルーツもありつつ、ぼくはぼくでやりたいことを選んできたので。親に音大に行けと言われたこともないんです。むしろぼくが最終的に歌を選んだことに驚いていましたね」

 歌というよりも、まず舞台の魅力に取りつかれたようだ。

「13歳のときに『マクベス』の舞台に子役で出たんです。歌はなかったんですが、満場のお客様、100人以上の歌手、オーケストラがいる前で、ラストシーンは、ぼくが剣を掲げたところで終わるんです。父も出演していました。その舞台で、ぼくは大人たちが普段子どもには見せない、真剣な顔、必死に何かをやろうとしている現場、まさに『大人の本気』を生まれて初めて実感したんですね。ぼくもこんな風に舞台の上に立ちたい! そのために歌の勉強をしなくっちゃ! と思うようになったんです」

 男性が声楽をやるには、声変わりをしてから1、2年経ってからでないとダメらしい。13歳のときの彼はまだ身長140センチ台。彼はそのタイミングを待って、15歳で歌の世界へと入っていった。

  • 出演:田代万里生

    1984年長崎県生まれ、埼玉育ち。東京芸術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。埼玉県立大宮光陵高校音楽科声楽専攻(テノール)卒業。ピアノ講師である母のもとで3歳からピアノを学び、いくつかの楽器を経て15歳から声楽の道へ。大学在学中に本格オペラデビューし、2007年にソリストグループ「ESCOLTA」(エスコルタ)でCDデビュー、定期的にコンサートを行っている。7月17日にはミニアルバム『ひとつの空』を発売。2009年からはミュージカルにも多数進出し、好評を得る。6月5~6日、Bunkamura オーチャードホールで開催される『ワイルドホーン・メロディーズ』にも出演する。
    公式ブログ http://ameblo.jp/mario-capriccio/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:藤井康弘 http://www.yasumakeup.com/
撮影:萩庭桂太