役者さんには2タイプがあるという。台本にいろいろと書き込んで真っ黒にする人と、何も書かない真っ白な台本をもっている人。鶴田さんは、後者らしい。

「私、演技論とか、よくわからないんです。映画を見ても一般の女性と同じように泣いたり笑ったりして、感想を聞かれると『よかったよー』だけ(笑)。主人公の気持ちに感情移入してみている、女性に多い見方ですよね。だから自分が演じるときも、役者どうしのエネルギー交換だったり、ストーリーの運びみたいなところが気になるんです。そこさえ身体に入ったら、楽しいと思える。芝居は好きで楽しい。理屈はないです。もちろん、医者をやるときはメスの使い方を覚えるとか、技術的な役作りはしますが、あとは現場で決めます。状況のなかでつくっていく。自由度が高い方が嬉しい。だから台本には何も書き込まないんです」

 最近、最初と最後だけ台詞が決まっていて、後は自由に演じてください、というような映画監督もいるらしい。

「そこまで自由に演じた経験がないから、怖くもありますが、それも面白いなと思えてきました。チャンスがあれば、そういう芝居もやってみたいです」

 自由に演じるということ。それは自由じゃない時期を経たからこそ、できることなのかもしれない。

「そうですね。やらなきゃいけないことは昔の方がありました。今はムリなことはしなくなっていますね。余計なことはもうしなくていいのかなと。ちゃんとエネルギーを使いたい。時間は限られているし、何にエネルギーを注いでいくかと考えると、意義あること、楽しいことに注いでいきたいから。頑張らなくてもそうできるようになってきたかもしれないですね」

 その日は花冷えの東京だった。彼女の笑顔にリードされながら、撮影は進んでいった。なんだ、東京でも、鎌倉時間で生きられることもあるじゃないかと、心のあったまった一日だった。

  • 出演:鶴田真由

    女優。映画、テレビドラマ、舞台、CMなどの活動のほか、自然体で飾らない姿と独自の視点からのコメントが支持を得て、旅番組、ドキュメンタリー番組への出演も多い。96年には日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。BS時代劇「酔いどれ小籐次」(6月14日~BSプレミアム)、映画「めめめのくらげ」(4月26日~)、「さよなら渓谷」(6月22日~)、「ほとりの朔子」(今春公開予定)、舞台「花音」(5月18日・19日鎌倉浄智寺)に出演。
    http://tsurutamayu.com/
    http://camp-fire.jp/projects/view/602

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:茂手山貴子 http://moteyama.com/
衣装協力:YARRA http://yarra.co.jp/
撮影:萩庭桂太