登紀子さんは革命を起こせる人ですよね、と言うと、彼女は首を横に振った。

「革命は、起こすものではなくて、そこにあるもの。生きていることそのものなんです。音を立てて流れること。生きている刻々を発信して流れること。」

 そこまで言うと、またにこりと笑ってこう付け加えた。

「だからね、好きな人と抱き合うのも革命。大きい言葉を小さい事実にしていかなければならないの。故郷とか、国とか、革命とか、そういうスケール感のある言葉こそ、噛み砕いて伝えなくてはならないと思います。フクシマとか、日本とか、大きな言葉だけに惑わされちゃダメ。自分が噛み砕いた小さな言葉で、人を大切にすること、今この一瞬を守るにはどうしたらいいかを考えないといけないんです。だから革命はLOVE、なのよ」

 再来年、50周年。半世紀を歌っている人の言葉はずしんと胸に落ちる。この人にとって、一曲一曲を歌うことがまた日々の革命なのだろう。

「そういえば『リリー・マルレーン』とか『琵琶湖周航の歌』とか、私は大昔の歌をポピュラーソングにしてきたわね。でも今になってますます面白い。どんなにビルが建っても、大昔と同じ風が吹いているわけだから。歴史という大地を踏みしめて私も時代時代の空気の粒子が入っている風を、歌っていきたいと思います」

 すべてを真正面から見据え、そこに飛び込み、半世紀を群衆の中で歌い続けてきた人を、褒め称える言葉を私は見つけることができない。

 今はただ飲んで、静かに耳を傾けるばかりである。

  • 出演:加藤登紀子

    1943年、旧満州ハルビン生まれ。終戦後帰国し、京都で育つ。東京大学在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し、翌年プロデビュー。1971年『知床旅情』が大ヒットし、人気シンガーとなるが、72年に当時学生活動家だった藤本敏夫と獄中結婚して世間を驚かせる。3人の娘を育てつつ、数々のヒット曲を世に送り、映画『居酒屋兆治』などでは女優としても活躍。環境問題や親善大使など活動は多岐に渡り、世界各国を歌い歩く。2013年7月には恒例のBunkamura 等々、各地でのコンサートが決まっている。4月1日、ニューシングル『過ぎし日のラブレター』発売。
    TOKIKO WORLD http://www.tokiko.com/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太