佐藤タイジさんと登紀子さんとの出会いは、2012年、日比谷公園で行われた「3.11」の集まりだった。登紀子さんが「みんなで歌おう」と呼びかけ、『All You Need is Love』を歌って意気投合したのだという。

「あのときは何万人も集まっているのに妙にしんみりしていた。私はもっと気炎を上げたかったのね。そのときに、タイジくんだけが声をあげてくれた。ああ、この人と一緒に動いたら何か生まれるかもという気がしたわね。そこから道志村、静岡、フジロック……と、野外フェスでセッションして。でも何か一緒に新しい曲を作らないとその先がないと思ったのね。それで彼の書き下ろしの曲、『愛と死のミュゼット』をTHEATRE BROOKのアルバムでデュエットすることになったの」

 ちょうどの1年後の3月11日にも、同じ日比谷公園に、二人の姿があった。

 登紀子さんは言う。

「タイジくんはね、自由な感じがする。大杉栄の言った言葉だけれど『整調』じゃないのね。今まで出会った人のなかでは、河島英五にちょっと似ている。このまま、二人で旅芸人になっちゃおうか、みたいなね。私はそういうのが好き。まっすぐに椅子が並んでいるのなんて嫌い。ちょっと曲がっている方が落ち着くじゃない。日本は整調の国。知らないうちに支配されているし、解決しない問題から提起してがんじがらめにしている。どうすれば楽しいか、から考えればいいのに。できること、シンプルなことからやればいいのよ」

 その日は、ちょうどライブの真っ最中にあの煙霧が襲った。それでも二人は力強く歌い続けた。

 ひょっとして、登紀子さんがあの風を起こしたんじゃないかと、私は疑った。

  • 出演:加藤登紀子

    1943年、旧満州ハルビン生まれ。終戦後帰国し、京都で育つ。東京大学在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し、翌年プロデビュー。1971年『知床旅情』が大ヒットし、人気シンガーとなるが、72年に当時学生活動家だった藤本敏夫と獄中結婚して世間を驚かせる。3人の娘を育てつつ、数々のヒット曲を世に送り、映画『居酒屋兆治』などでは女優としても活躍。環境問題や親善大使など活動は多岐に渡り、世界各国を歌い歩く。2013年7月には恒例のBunkamura 等々、各地でのコンサートが決まっている。4月1日、ニューシングル『過ぎし日のラブレター』発売。
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  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太