加藤登紀子さんがこのYOUR EYES ONLYに出てくださることになって、いろいろ打ち合わせしていると、数年前と変わらぬ超人的な仕事ぶりに驚いた。

「今、THEATRE BROOKの佐藤タイジさんとコラボレーションしていたりもするんです。今度、代官山UNITでライブがあるので、それを撮られませんか」

 実は恥ずかしながら、萩庭桂太も私もその時までTHEATRE BROOKを知らなかった。なんでも、昨年、武道館でソーラーシステムだけで発電した電力でコンサートをやってのけたという、すごいバンドらしい。

 加藤登紀子&THEATRE BROOKの共作『愛と死のミュゼット』を聴かせてもらったが、素晴らしいものだった。登紀子さんはこれまでいろんな人とコラボをしているが、こんなにしっくり声が合うという出会いもそんなにはないのではないかと思った。

 代官山UNITに着くと、ものすごい人だった。観客は20代後半~40代までいるだろうか。こういう場所は、みんな立って聴くものなのである。

 大丈夫か、萩庭桂太……と思って探すと、最前列で大きなカメラを構える若者カメラマンに混じってちっちゃいカメラをもって頑張っていた。若者たちは「なんやこのおっさん」と思ったことであろう。

 じゃーーーん。

 THEATRE BROOKの音を聴いてひっくり返った。いい音だなあ。ドラムは今をときめく沼澤尚さんである。なんでもできます感のある、すごい上手いバンドなのである。そしてギターを弾きながら歌う佐藤タイジさん。髪の毛は鳥の巣状態だが、背が高くてイケメンだ。

 THEATRE BROOKで5曲終わり、黄色い歓声に迎えられて迷彩柄のドレスの登紀子さん、「さくらんぼの実る頃」をうたいながら登場。不思議なくらい、違和感がない。

「『さくらんぼの実る頃』という歌はね、まさに革命の歌なのよ。これこそが、ロック!」

 確かにフランス革命のときに生まれた曲らしい。会場はしんと引き込まれていく。その沈黙を破るように、登紀子さんのオリジナル「New Revolution」を佐藤タイジさんとデュエット。

 そして登紀子さんは革命について語り始めた。

「レボリューション(革命)っていうのはね、一番わかりやすいのは、恋なのよ。私、20歳のときに初めてキスをして、そのとき革命が起こったと思ったの。初めて人間を身体の中から見たわけですよ。急に世界がわーっと広がってね。それでキスの次に何がくるかっていうと、当然……でしょ(笑)」

 確かにそれはもっとも身近な、そのときの聴衆にもわかりやすい革命である。

 舞台には日本酒の一升瓶が用意されていた。酒を飲んだら声が出なくなる、と遠慮する佐藤タイジに「あなたは人間という病に侵されている」と勧め、自らもぐびっと飲んで登紀子さんはまた歌った。

 まごう事なき、ロックであった。

  • 出演:加藤登紀子

    1943年、旧満州ハルビン生まれ。終戦後帰国し、京都で育つ。東京大学在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し、翌年プロデビュー。1971年『知床旅情』が大ヒットし、人気シンガーとなるが、72年に当時学生活動家だった藤本敏夫と獄中結婚して世間を驚かせる。3人の娘を育てつつ、数々のヒット曲を世に送り、映画『居酒屋兆治』などでは女優としても活躍。環境問題や親善大使など活動は多岐に渡り、世界各国を歌い歩く。2013年7月には恒例のBunkamura 等々、各地でのコンサートが決まっている。4月1日、ニューシングル『過ぎし日のラブレター』発売。
    TOKIKO WORLD http://www.tokiko.com/

  • 出演:佐藤タイジ

    THEATRE BROOK(シアター・ブルック)のボーカル&ギター。1986年に同バンドを結成。1995年エピックレコードジャパンよりメジャーデビュー。ミニアルバム「CALM DOWN」に収録されていた「ありったけの愛」がFM各局でパワープレイされ、人気となる。昨秋、武道館でソーラーシステムだけの発電でコンサートを敢行、今年もソーラーシステムで開くライブを推進していく予定。
    http://www.taijinho.com/
    http://www.theatrebrook.com/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太