若い日。出会った頃の山下久美子と大澤誉志幸は、とんがっていてあまり話すこともなかったと笑う。ケンカしたこともあった。

「兄妹ゲンカみたいなものでね。でも何年かして声掛け合うようになった。同じ事務所だったという縁もあるし、酒でも飲むか、みたいな」

 大澤さんがそう言うと、久美子さんもうなずいた。

「80年代、90年代と過ごしてきた時間があるから。普段からとても親しい友達だと思ってるわけじゃないけど、お互い音楽という共通の世界があるから、音楽を介しての友達、という意識はある。だからこそやさしくなれる何かがある気がします。ちゃんと人のことを考えられる大人になった、というのもあるけれど」

 アルバム『&Friends』では、デュエットというよりも、お互いそれぞれの歌唱を尊重しながらコーラスを入れ合ったり、という曲が多い。

 新曲には大澤さんが『蕾』というタイトルをつけた。久美子さんは、このタイトルがとても気に入ったそうだ。

「これから厳しい世の中はまだまだ続くかもしれないけれど、これから咲く楽しみもたくさんあって。花の散り際の美しさもあるけれど、枯れていくのは嫌。蕾、という言葉を見て、よかったなあと」

 大澤さんも自信ありげだ。

「人と人とのつながり。形にしていくということ。音楽を超えて人生につながる何か。そういうことまで伝わるといいなと思います」

 4月から、各所での二人のライブも始まる。

 桜の蕾が花開いていくように、その音にあるぬくもりが、春を告げてくれそうだ。

  • 出演:山下久美子&大澤誉志幸

    山下久美子は大分県生まれ。1980年にデビュー、『赤道小町ドキッ』など多くのヒット曲をもつ。独特の歌唱とリズミカルな動きでライブの女王とうたわれ、「総立ちの久美子」の異名をとる。2000年に双子を出産、音楽活動は緩やかに続けている。
    大澤誉志幸は1957年東京都生まれ。81年にバンドデビューするが同年12月に解散。83年にソロ・デビューし、『そして僕は途方に暮れる』などのヒット曲を出す。沢田研二、吉川晃司らへの楽曲提供でもヒットを連発。99年3月に歌手活動を休止、02年に活動を本格開始。このとき名前を大澤誉志幸に改名。今年は二人のユニットで、3月25日にアルバム『&Friends』をリリース。4~5月にコンサート活動も行う。
    http://www.teichiku.co.jp/artist/yamashita-ohsawa/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太