吉田美奈子は細野晴臣と松本隆との出会いによって音楽活動をスタートさせた。デビューは1973年の『扉の冬』である。このアルバムには「扉の冬」「ねこ」「週末」……など名曲が多い。

 それぞれの曲では、なにげない日常から切り取った風景が歌われる。そのなにげない風景も、吉田の言葉と歌によって水彩画のように感じられる。

 アルバムは全曲キャラメル・ママが演奏した。バンドのメンバーは、細野晴臣(ベース)、松任谷正隆(キーボード)、鈴木茂(ギター)、林立夫(ドラムス)の4人。その後の日本の音楽シーンを形作っていく優れた音楽家たちだ。

 吉田は、その後も『FLAPPER』『Twilight Zone』『愛は思うまま』『MONOCHROME』『BELLS』『EXTREME BEAUTY』『Stable』……など数々の名アルバムを生んできた。また、作家としても豊かなキャリアを持つ。松田聖子、中森明菜、中島美嘉、アン・ルイス、布袋寅泰……などさまざまなシンガーたちに楽曲を提供してきた。そして、「SPARKLE」「潮騒」「愛を描いて」など山下達郎の初期の名曲のほとんどの歌詞は吉田の手による。

 ライヴも、バンド、ピアニストの倉田信雄とのデュオ、ギタリストの渡辺香津美とのデュオ……などさまざまな形態で行っている。

 そして、今回は、吉田の歌、河合代介のハモンドオルガン、沼澤尚のドラムスによるTRIMで北海道から九州までまわる。

 なぜ、この編成なのか――。

「2012年の6月にTRIMで17日間13本のツアーをやったのがきっかけです。短い期間でしたけれど、音楽が日に日に進化していく実感がありました。表現が繊細になっていくんですよ。もうずいぶん音楽をやってきましたけれど、まだこういう体験ができるんだ、って」

 それが長いツアーをやる発想につながった。

「初めての土地へ行って、初めての人に聴いていただいたら、もしかしたら、スゲエ! と思っていただけるのではないかと(笑)」

 日本の津々浦々を回るツアースケジュールは、ドラムスの沼澤が中心になって組んだ。

「タカちゃん(沼澤)が自分のユニットで回ってきた会場をリストアップしてくれて、1つ1つ私が交渉を行いました」

 移動は河合が運転するハイエース。3日連続でライヴが続くスケジュールも多い。街から街へ移動して歌う4か月間。

「~TRIM~ CARAVAN TOUR 2013 吉田美奈子 & 河合代介 meets 沼澤尚」というツアータイトル通りのキャラバンだ。

「~TRIM~ CARAVAN TOUR 2013 吉田美奈子 & 河合代介 meets 沼澤尚」

3月21日(木) 宮崎、25日(月) 長崎、26日(火) 博多、4月5日(金)・6日(土) 東京目黒、10日(水) 金沢、5月2日(木) 横浜、11日(土) 札幌、16日(木) 仙台、21日(火) 名古屋、24日(金) 大阪、6月1日(土) 広島、5日(水) 神戸、6日(木) 京都、13日(木)・14日(金) 東京目黒など全国43か所

詳細は http://www.la-la-bells.com/ をご参照ください
※ツアー会場ではTRIMのスタジオライヴDVDを発売(3,500円)。

  • 出演:吉田美奈子

    音楽家。1953年生まれ。当時交流を持った細野晴臣(現・YMO)や松本隆(現・作詞家)などに影響を受け、楽曲制作を始める。間もなくシンガー・ソング・ライターとして、ライヴ中心の音楽活動を開始。1973年、アルバム『扉の冬』で本格的にデビューの後、CM音楽(1985年・第33回「カンヌ国際広告映画祭」銀賞受賞)制作や、他の歌手などへの楽曲提供(現在までに130曲を越える)、プロデュース、アレンジを含む一人多重録音によるコーラス歌唱等のスタジオ・ワークも行っている。2012年1月現在、オリジナル・アルバム19作品(ライヴ、ベスト、シングル、企画盤は除く)、コラボ・アルバム3作品、ライヴ映像収録DVD等を4作品リリースしている。ジャンルを取り払った自由自在な音楽活動は、クオリティーを保ちながらも個性を発揮するミュージシャンとして、多方面から共演を熱望され、常に高い評価を得ている。

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生きていたジャズミュージシャンのほとんどにインタビューを行った。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太