通称・きんちゃん。矢沢透はアリスのドラマーとしてあまりにも有名だ。しかしそれ以前の経歴についてはあまり知られていない。HUKUROHのプロデューサー、渡辺高志氏によると「きんちゃんは17歳にしてR&Bの天才ドラマーと言われていた」とのことである。

 ご本人に聴いてみよう。

「当時R&Bを叩ける人はほとんどいなかったんです。重宝されて、米軍キャンプ回りとかもやりましたよ。30分ステージを3回と1時間ステージを1回がワンセットで、それを一晩に2~3カ所やって、その後新曲のリハをやって、朝の6時頃に解散。それでまた朝9時に起こされる、みたいな。年中寝不足でした」

 やがて大阪で、まだ高校生だった桑名正博に出会う。うちに蔵があるからと誘われて、そこで演奏したら、桑名が感動して「うちに来てください」と請われ、居候したという時期も。ドラマーとしてザ・ピーナッツや布施明のバックバンドにも参加、後にオフコースの1枚目と3枚目のアルバムにもクレジットがある。

「オフコースと同時にアリスの話も来たんです。谷村さんが『サンタナみたいなバンドをやりたい』というので、喜んで行ったら、デビュー曲がアコースティックギターでつまびくようなイントロから始まる『走っておいで恋人よ』(笑)。これ、サンタナじゃなくてベッツィ&クリスじゃないって……。でも『愛の光』という曲を叩いたとき、ここでしかぼくが生きる道はない、と思ったの」

 実は今もアリスの再結成時には矢沢透は欠かせないメンバーだ。なぜHUKUROHに参加したのだろう。

「なんかいつのまにか組み入れられちゃったんですけど(笑)。セッションしてみて、楽しい、から始まった。頑固なくらいエレキギターが入っていない。アルバムに入っている『十六夜の月』なんてアコースティックギターとホーンセクションですよ。それが違和感のないバンドって面白いでしょ」

 実は5月からまたアリスが始動する。矢沢透が不在時のHUKUROHはMIMIZUKUになるそうである(笑)。

  • 出演:HUKUROH

    元シグナルで今や国内外でコンサート活動を続けるソロギタリストである住出勝則、アリスのドラマーとして知られ、数々の有名アーティストとセッションする矢沢透、『南回帰線』のヒットをもち、現在はR&Bシンガーとして横浜を中心に活動する滝ともはるの3人が結成したユニット。1月23日デビューアルバム「HUKUROH」を発売。1月20日に東京・目黒ブルースアレイ、2月14日に大阪umeda AKASOなどでライブも開催。
    http://www.hukuroh.com/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太