明治神宮は七五三を祝う家族でにぎわっていた。

 アレンジャーのダニエルに私はブロークンな英語で一生懸命説明した。ダニエルは30歳だというが、妙に落ち着いてる。繊細でやさしい人だ。神楽殿から微かに聞こえてくる雅楽の音を、目を閉じて聴き入っていた。

「ダニエルが『雅楽の音色がグレゴリオ聖歌に似ている』って言ってます」

 千里さんが通訳してくれた。二人はおみくじを買ったり、写真を撮ったりしている。まるで二人ともが外国人みたいだ。

 ブルーノートのときのメンバーしかり、ダニエルしかり、千里さんはどんなふうにミュージシャン仲間と出会っているのだろう。

「ダニエルは同じ学校の卒業生です。他のメンバーもそういう人もいるし、信頼できる友人からの情報を聴いてYouTubeをチェックしてコンタクトを取ったり、という人もいます。つくりたい音楽に合うメンバーを集めるわけですが、最終的にはソリが合うというか、人としてのハートフルさ、時間の感じ方を共有できるかどうかということが大事だと思います。ニューヨークの面白いところは、そういう相手に出会えるんですよね。うまくなればなるほど、この人! と思える人と出会う確率も増えます」

 卒業後、初めてのアルバム作りは自分でミュージシャンを集め、スタジオを押さえ、1000枚のCDをつくるところから始まった。

「その経験で、日本でのレコード会社の人たちに改めて感謝しました。スタジオ、レコーディング、リーズナブル、っていう検索から始めましたから。レコーディングが迫ってきても、いいスタジオが見つからず焦ったこともありました。でもあたふたしたときに手を差し伸べてくれる人がいるもので、そういう人はキーパーソンになるんです」

 インターネットという便利なものがあるとはいえ、1つずつ、手作業だった。レコーディングは今年2月に行われ、最初のCDは1000枚プレスした。

「怖さはありましたよ。この1000枚、手売りで売って、何年かかるんだろう、って。ぼくの歌詞が好きで応援してくれていた人が今回も応援してくれるという確証もないですし。でも1からなんだから、小さいところから広げていくしかないと思いました。不安というより、そうするしかないという気持ちでしたね」

 日本のブルーノートにも自分で交渉した。アルバムは半年後、日本の古巣、ソニーミュージックのヴィレッジミュージックというジャズセクションでも販売してもらえることになった。

「すべて今年に起こったこと。東京ジャズにも、ブルーノートにも出演し、次の目標も見えてきて正直ほっとしています。でもまた途方もないことを始めようとしている気もする。ひとつのことを集約して、来年はピアノとベースとドラム、というトリオの面白さも追求してみたい」

 歩きながら夢を語る彼はやっぱり少年のようだった。

  • 出演:大江千里

    1960年、大阪府生まれ。83年にシンガーソングライターとしてデビューし、『格好悪いふられ方』などの自身のヒット曲の他、松田聖子、渡辺美里らへの楽曲提供でも活躍。音楽活動のほか、役者、司会者、エッセイ執筆でも人気を博す。08年にジャズピアノを学ぶため単身渡米。ニューヨークで4年間の学生生活を終え、2012年、アルバム『boys mature slow』でジャズピアニストとしてデビュー。日本でもブルーノートでの公演を成功させた。

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太