マンゴーミルクを飲みながら古川雄輝は言った。

「7歳から中学を卒業するまで、カナダのトロントにいました。その後、両親はカナダに残り、ぼくはニューヨークの高校の寮に1人で入ったんです」

 高校を卒業して日本に帰ってきて7年。ということは、海外で生きていた時間のほうがずっと長いのだ。

「最近、やっと日本人寄りになってきたんです。つい、おじぎするようになったんですよ! 最初はおじぎのタイミングがわからなかったんです」

 英語圏には丁寧な言葉遣いはあっても敬語はない。

「両親、姉とは日本語で、3歳でカナダに渡った弟とは英語で話していました。英語まじりの妙な日本語でしたね。本心を伝えたいときも英語だったし、夢も英語で見ていたと思います」

 でも彼は日本という国が大好きだった。

「日本のことをもっと勉強したかったし、日本に帰りたくてしかたがなかったんです。だからニューヨークの日本の大学の分校へ行こうと決めたんですよ。でも入ってみたら、日本人の先輩に『おまえ、生意気だ』とけっこうしめられました(笑)。空気を読み合ったりすることには全然慣れなかった」

 空気を読まない。でも役者ならそれでもいいのでは。しかし、マネージャーさんは首を振った。

「舞台の稽古で1人だけ稽古着じゃないとか、それは困りますよ。Going my wayとか言ってる場合じゃないです」

 そう言われても、本人はニコニコしている。

「ぼくはまずいことしているつもりはありません」

 うーん。ひょっとしたら、この人、空気を読まないんじゃなくて、頑固なんじゃないだろうか。まあ、もうちょっと話を聞いてみよう。

  • 出演:古川雄輝

    1987年12月18日、東京生まれ。父親の仕事の関係で7歳でカナダ・トロントへ渡り、11年間、海外で過ごす。18歳で帰国、慶應大学理工学部に入学。制御理論を学び、エンジニアを目指す。09年、ミスター慶應に選ばれたのをきっかけに翌年、新人発掘オーディションで審査員特別賞。2010年夏、役者デビュー。12月には舞台『家康と按針』に出演、翌1月にはロンドン公演も決定。2013年は出演した映画『永遠の0』(山崎貴監督)も公開予定。
    オフィシャルブログ http://ameblo.jp/furukawa-yuki/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太