独特の日本語
アリス=紗良・オット
- Magazine ID: 1154
- Posted: 2012.10.16
アリス=紗良・オットに会うのは、今回で3度目だ。最初は2009年。『チャイコフスキー&リスト:ピアノ協奏曲 第1番』をリリースした時。2度目は2010年。『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》』をリリースした時だ。2度とも、彼女の横にはお母さんが付き添っていた。
アリスはドイツ人の父と日本人の母の間に生まれたが、ずっとドイツで、ドイツ人として育った。だから、日本語の微妙なニュアンスの受け答えが難しい。そのフォローのために、インタビュー時もお母さんが付き添っていたのだ。
「楽譜をパーフェクトに弾いて、その上で情感を表現するのがクラシック。でも、私が思うパーフェクトは違います。不完全でもそこに自分らしさが表現できた時が、私のパーフェクト」
そう語っていたのが印象的だった。クラシックで、不完全さを肯定的に語る演奏家に出会ったのは初めてだったからだ。
さて、今回の日本、アリスはトルコ人のマネージャーさんとやってきた。
「母はミュンヘンにいます。用事があって、今回は、一緒じゃありません。それに、私、日本語がだいぶわかるようになったから」
単語をつなぎながら話すような日本語だけど、大きな声ではっきりと話してくれるのでわかりやすい。
今回のライヴアルバム『PICTURES』はアリスの2つの面が楽しめる。「ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》」は研ぎ澄まされたような演奏。一方、「シューベルト:ピアノ・ソナタ第17番」は楽しげな、踊るような演奏なのだ。
なぜ、同じ日のステージなのに、こんなにテイストの違うピアノになったのだろう?
それには理由があった。
『PICTURES』 2012.10.17発売
限定盤 SHM-CD(+DVD) 3,300円(税込)UCCG-9992
通常盤 SHM-CD 2,800円(税込) UCCG-1589
http://www.universal-music.co.jp/alice-sara-ott/discography/
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出演:アリス=紗良・オット
1988年ドイツ、ミュンヘン生まれ。父親はドイツ人。母親は日本人。4歳でピアノを始め、ヨーロッパの数多くのコンクールで優勝する。2008年ドイツ・グラモフォンから最初の作品集『リスト:超絶技巧練習曲集』をリリース。2作目の『ショパン:ワルツ集』はドイツとアメリカで、クラシックiTunesチャートで1位になる。 最新作は、7月3日にロシア、サンクトベテルブルクの「白夜祭」の夜に「ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》」と「シューベルト:ピアノ・ソナタ第17番」をライヴ収録した『PICTURES』(10月17日発売。ユニバーサル ミュージック)。
10月23日からは日本ツアーをスタート。10月29日(月)NHKホールでは、ロリン・マゼール指揮NHK交響楽団と「グリーグ:ピアノ協奏曲」を共演。詳しい日程はこちらユニバーサルミュージック オフィシャルサイト
http://www.universal-music.co.jp/alice-sara-ott -
取材・文:神舘和典
1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生きていたジャズミュージシャンのほとんどにインタビューを行った。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。
新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
幻冬舎文庫 http://www.gentosha.co.jp/book/b4157.html
撮影:萩庭桂太