かくして撮影の日。

 案内してくださった柿崎幸人取締役は、取締役とはいえ、事務所スタッフと同じストライプの半袖のシャツ姿。JR東日本時代は新幹線の運転士をされていたこともあるという、律儀であったかくて、もちろんめちゃくちゃに時間計算のできる人である。

 部外者がいきなり見てもなんのことやらわからない、新幹線のダイヤと勤務形態の複合表を見ながら、撮影したいと願った場所を指定してくださる。

「4分後に1組が戻って来ますから、そこでこれを撮りましょう。そして10時50分までには事務所に戻って研修風景、11時過ぎに点呼風景が撮れますね」

 分刻みの時間の制約の中で仕事をする、というものがいかに厳しいかということがよくわかった。

 ちなみに新幹線の降車から再乗車までの時間は7分しかない。そこで一車両の清掃を1人で行う。畳まれたテーブルを拭き、ゴミを拾い、汚れた床を拭き、背もたれのカバーを交換する。目にも止まらぬというほどの早さである。取材に来るテレビカメラがついていけないこともあるらしい。

 もし新幹線が遅れた場合、3分しかないこともある。しかし3分でできるだけのことをして定時に出発させる。それが、テッセイの天使たちの仕事なのである。

 1チームの基本編成は22人。多いときには1チームが1日約20本の清掃を担当するのだという。早出、遅出、泊まりもある。

 8年目になるというKさんに話を聴いた。

「私は昔、某歌劇団にいてショーに出ていたことがあります。その後、スナック経営をして、それから新聞の求職欄でテッセイのことを見て受けました。最初は車両基地の配属でした。ヘルメットをかぶって、食事中もしゃべっちゃいけなくて。肉体労働だし、3カ月もつかしらと思いました。でも5年目に東京駅に移り、こちらはお客様に会えるので、楽しくて楽しくて」

 20歳以上のすべてのパート社員が1年間勤務すると、正社員の登用試験を受けることができる。50代で正社員になる女性も多い。1人ひとりの社員を大事にする幹部の気持ちが、やる気を育てているのだろうか。

 いったいこの会社の人たちがいつからこんなふうになったのか、聴いてみたいと思った。

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太