「叙情的なゆらめきがある」
矢野聖人
- Magazine ID: 1118
- Posted: 2012.08.08
そろそろ真面目にインタビューしてみよう。
まず矢野聖人さんのデビューは、なんといっても世界のニナガワが発掘したということなのである。2010年3月、8523人が応募した舞台『身毒丸』の主役オーディション。彼はいきなりここでグランプリをとる。
「『身毒丸』って最初に聞いたときは、船の名前かと。そのくらい、何も知らなかったんです。でもこれに受かったら、大きなプロダクションに入って、いっぱい仕事が来るのかなと思って。とりあえず、大学進学を辞めたので、やることが決まらず、親に迷惑をかけるのも嫌だなと思っていたので」
オーディションは書類選考の後、選ばれた人たちに3シーン、11ページ程度の台本が送られた。
「すごく難しい言葉ばっかりで、いちいち辞書を引きました。実はぼく、まさか受かると思ってなかったんでヤマをはって2シーンしか覚えていかなかったんです。それが最初の演技審査で偶然その2シーンをやることになって。もちろんその次に進んだときは全シーン気合いを入れてちゃんと覚えていきました」
最終演技審査の通過者は彼を含めたったの2人だった。
「もうわけわかんなくなって。受けてる人数とか全然知らなかったですけど。最後の2人は『どっちが先にやるか、じゃんけんで決めろ』と言われ、ぼくは勝ったけど『後で』と言いました。実は先頭切る自信がなかったんです」
ちょっとびびったわけである。でも、矢野聖人が演じ出すと、蜷川幸雄さんは立ち上がり、右手を挙げて、彼の目線を指示し始めた。
「その蜷川さんの行動の意味がまたぼくを二つに引き裂くんですよ。台詞をしゃべって演じながらも『ぼくがダメ過ぎるのか』『イケてるから指示してくれてるのか』と、揺れていました」
それもまた結果的には功を奏したのかもしれない。彼はグランプリを取った。
ニナガワの評は「矢野聖人には叙情的なゆらめきがある」だった。
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矢野聖人
1991年東京都生まれ。蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』のオーディションで8523人の応募者のなかから選ばれ、デビュー。その後、2011年『身毒丸』を好演。その他ドラマ『GOLD』『リーガル・ハイ』、映画『天国からのエール』などで活躍し、現在は『GTO』に出演中。体脂肪率4%のボディが女性誌でも話題を集めている。
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取材・文:森 綾
1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
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撮影:萩庭桂太