4月19日、サラ オレインのデビューアルバム『セレステ』のリリースに先立って、小さなライヴが行われた。

 会場はル・アンジェ教会。東京は青山の住宅街にある洗練された会場だ。結婚適齢期の女性に大人気の教会である。このおごそかなライヴのMCはサラが所属するレコード会社の制作担当のS氏。パリッとしたスーツを着ている。この人のスーツ姿を見るのは初めて。ふだんは、失礼ながら“日曜日のお父さん”風な服装だ。

 Sさん、妙に緊張している。主役のサラ以上に固い。場所が教会だから、花嫁の父の心境なのだろうか。

 そして、このS氏、さかんにギャグを言うが、すべる。また言う。またすべる。気の毒になってくるほどだ。

 さあ、いよいよサラの登場。オー!  きれいだ! 白いひらひらの衣装。花嫁のようだ。

 聞くところによると、この衣装、自前だそうである。しかも、同じテイストの服を何十着も持っているらしい。ふだんはどんなシチュエーションで着ているのだろう? こんな服を着る女性と、1度でいいからデートしていただきたいものだ。

 ライヴの1曲目は、アルバムの1曲目でもある「イフ」。デヴィッド・ゲイツの曲。いい曲だなあ。実は、この曲、18年前に結婚した時に新郎新婦入場に使った。懐かしい。まあ、7カ月でピリオドを打ったので幻のような結婚生活だったが。

 生で聴くとよくわかるが、透明感のあるサラの声はときどき微妙にハスキーになる。そこが妙にセクシーだ。

 2曲目はジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」。3曲目はペレリック・モラレウスの「コッポンゲン」。サラは歌の間にヴァイオリンの演奏を入れる。かなり上品で、この会場にぴったりだ。

 4曲目は、作詞・上田知華、作曲・一倉宏の「比べられない」。5曲目はイタリアン・ポップスでオルネッラ・ヴァノーニのヒット曲「約束」。「比べられない」はもちろん日本語詞。「約束」はイタリア語詞。サラは、英語と日本語のほかにイタリア語も堪能なのだ。イタリアの楽曲だけど、アレンジはボサノヴァ。ギターの調べが心地よい。このライヴ、アコースティックのバンドがサポートしているが、音と音のスペース、つまり鳴っていない空白が絶妙だ。

 S氏のMCをはさんで、ラストは上田知華の「私の好きな月」とサラが好きな「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマ。

 S氏がサラに「サラは天使のようです」と言うが、サラは聴こえないふりをしてやり過ごして、歌い始めた。

 後で、「あの無視のし方は冷たいのでは」とサラにいうと、「だって、私だって緊張していましたし、どう対応していいか、わからなかったんですよ」と笑った。

 このライヴ、帰りがけ、お土産に海外ブランドのポップコーンをくれた。

あれは何の意味があったのだろう?

『セレステ』 2012.06.20発売

Blu-ray付限定盤【左】 3,675円(税込) UCCY-9014
通常版【右】 2,854円 (税込) UCCY-1025
http://www.sarahalainn.net/discography.html

  • 出演:サラ オレイン

    1986年オーストラリア生まれのシンガーソングライターでヴァイオリン奏者。子どもの頃からヴァイオリンで国内のコンクールで優勝を重ね、シドニー音楽院に入学。2006年にはシドニー大学に入学し、2008年に東京大学に留学。英語、日本語、イタリア語に堪能なことから、留学時よりコピーライターの仕事に携わる。2010年にシドニー大学を首席で卒業した後、日本での音楽活動をスタート。任天堂Wiiのゲームソフト『ゼノブレイド』やスクウェアエニックスのiPhone向けRPG『ケイオスリングス オメガ』の音楽を担当。6月20日(水)にシンガーソングライター&ヴァイオリン奏者としてのデビューアルバム『セレステ』をリリース(ユニバーサルミュージック)。7月27日(金)に神奈川県の葉山マリーナで開催される「真夏の夜のJAZZ」に出演。11月9日(金)には東京恵比寿ガーデンホールでデビューコンサートが決定。
    翻訳家としても、越野民雄著『オレ・ダレ』(講談社刊)の英語版『Who? Me?』の翻訳を担当した。

    デビューコンサートの詳細 http://www.sarahalainn.net/news/concert/01.html#top01
    オフィシャルサイト http://www.sarahalainn.net/
    公式facebook http://www.facebook.com/sarahalainn.net

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生きていたジャズミュージシャンのほとんどにインタビューを行った。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
    幻冬舎文庫 http://www.gentosha.co.jp/book/b4157.html

撮影:萩庭桂太