2020年、コロナ禍で大学も休講になり、いったん鹿児島県の実家に戻った上大迫祐希。
「その頃の私は、東京に出てきて現実を知った、というか。ワークショップに参加してみたら、世の中にはこんなに芸能界を目指す人がたくさんいるんだと知って、しかもみんな〝誰にも負けない〟というガッツがあるのを肌で感じたんです。私はこんな厳しい世界でやっていけないかも、と、一度は心が折れかけました。そこにあのコロナ禍で、オーディションのお話があっても、都心に出るのが怖い、と思ってしまって。だから学校が1ヶ月休講になってすぐ、地元に戻ったんです」
 いったんはビビった上大迫。そんなタイミングでひとつ、オーディションが舞い込んだ
「マネジャーさんが言うには、クオリティの高い作品だし、選ばれる確率は低い、と。でもその作品が募集している役は田舎から上京してきた、都会を夢見る女の子。鹿児島に住んでいたときの私の想い、そのままだと思いました。しかもカメラが趣味という設定で、私もフィルムカメラで写真撮ったりしていたので、これは私そのものだ! 絶対やりたいと思いました」
 オンラインでオーディションを受けたら、なんとすぐに、好反応が。
「東京で対面の2次審査をやりたいので、すぐに出てこられますか? と聞かれました。今、行かなかったらきっとダメになると思って、『行きます!』って」
 そこで決まったのが映画『スパゲティコード・ラブ』のメインキャスト。本作は、明日を夢見てもがく若者たちの群像劇。彼女が演じたのは、嘘の投稿でリア充のふりをする、不登校の高校生だ。本作で映画デビューを飾り、同時に女優として高い評価を集めた。
「今の私に合っている役だったと思います。洗練しきれてない、垢抜けきれない田舎の子。どこにでもいるような、本当にその辺で生活してそうな。映画を見終わったあと、今もどこかでこの子暮らしているんじゃないか、って思われるような」
 そして、映画の撮影現場の、本当の魅力を知った。
「初めて現場を経験して、すごく楽しかったし、自分が生き生きとその中に居られるのを感じました。これを味わったらもう、簡単に辞められないな、と(笑)。お世話になったスタッフさんたちに、またお仕事の現場でお目にかかりたいと思うようになりました」