『みをつくし料理帖』、『おちょやん』、そして12月の『若村麻由美の劇世界』では『曽根崎心中』を取り上げて、若村さん、このところ着物姿が続いている。女芸人から芸者、堅気の女房、武家の奥方、料亭の女将などなど、どんな役でも艶やかなその着物姿は、まさに絶品。
「着物って、面白いんです。平面に仕立ててあるだけなのに、着方ひとつで、その役に合った着こなしができるんです。色柄による印象の違いはもちろんありますけど、同じ着物でも、襟合わせで、どうにでもなる。きちんとした奥様なら襟をきゅっと詰め気味にするし、芸者ならゆったり合わせて襟を抜く。だらしない風情も出せるし、その女の背景も表現できる。いわばカジュアルからラグジュアリーまで、自在です」
 小さい頃から日本舞踊を習っていたおかげで、着物には慣れ親しんできた。だからこそ、最近、ちょっと残念に思うこともあるらしく。
「時代劇でご一緒する若い俳優さんたち、着物のときはたいてい、衣装さんに着付けてもらうんですけど。私がデビューした頃は、襟合わせなどの前側の着付けは俳優自身の責任だったんです。自分の顔形、役柄に合った襟を自分で決めて、そこから着付けを手伝ってもらいました。でも今は、襟合わせからなにから、全部お任せ。動きのある芝居をして着崩れても、すぐに衣装さんが駆けよって直してくれる。でも、着崩れたのを自分でしゅしゅっと直しながら台詞を言えば、それだけで生活感がでるんです。だからちょっと、もったいないと思うんですよ。着物を着慣れれば、そういうこと、実感できるし、自分で襟を合わせたくなると思うんですけどね」
 なるほど、たしかに。シャツ姿なら、襟を立てたり袖をまくったりブラウジングしてみたり、自分に合わせていろいろできる。着物だって同じこと、の、はず。
「先日、若い俳優さんにちらっとそういうことを言ったら、『え? そういうこと、やっていいんですか?』って、聞き返されました。衣装さんが着せてくれるもので、自分がやってはいけないと思っていたんですって。だから私、あえて衣装さんがいるところで、『昔は襟合わせは、自分でやったものなのよ』って、大きめの声で話したの。だって、その若い俳優さんが勝手に襟合わせを始めたら、生意気だ、なんて思われちゃうとかわいそうだから(笑)」
 自分の知恵を今に伝えるのは、難しい。それに関わるいろいろな人たちの心情を思いやりつつ、深刻ぶらずに軽やかに伝えないと、真意はなかなか伝わらない。
「教える、というのとは、違うんです。私が受け取ったものを、次の世代に渡す。自分が先輩に教えてもらって、あなたの役に立つことがあるなら伝えるよ、という感覚です。それを受け取るかどうかは、その人が決めればいい。要ると思う人もいれば、要らないと思う人もいる。私自身も、そうだったと思います。もっとたくさん、いろんなものをもらっていたと思うけど、自分にピンとくるものしか受け取っていないはずなので。それはそれで、いいんじゃないかなって思います」
 そして、こと着物に関しては、伝える相手は若手俳優に限らない、とか。
「街で着物を着ている人を見かけると、心の中で〝ブラボー!〟って叫んでます(笑)。中には着方に問題あり、の人もたまにいますけれど、でもそんなの、着慣れていけばわかることですから。着物を着て何かするのは楽しいよって、気持良いよって、それを伝える人でありたい。これからは私自身も、ふだんから着物を着る機会を増やしていこうと思います」

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スタイリング・着付/秋月洋子

衣裳 雨庵

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ヘア 野中真紀子(éclat)

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