3年前とは、がらっと印象が変わった女優の長内映里香。でもその理由は、髪を切っただけじゃない。なんかこう、ひと皮むけたような。
「たしかに、そうかもしれません。私もともと、白黒はっきりつけたいタイプの人間だったんです。でも世の中は白と黒だけじゃないっていうことに、最近になって気が付いた。ですから今回、撮影の打ち合わせをするときに萩庭さんが〝モノクロでどうかな〟って言って下さったので、〝ぜひ、そうしてください!〟って。モノクロの世界って、色はないけど、それでも色を感じさせるものがある。モノクロだけど白黒じゃない、ニュアンス次第でどんな色でも感じさせられる。そういう芝居を私、今、やりたいんですよ!」
 実際、こんなことがあった。
 もともと、生真面目な優等生タイプなのだろう。映画やドラマのオーディションに向かうときも、その役についてトコトン研究し、万全の態勢で向かうのが、彼女のモットー。黒い役なら徹底して黒く、白い役なら極力白く、を心がけていた。
「オーディションや撮影になると、なんとしてでも爪痕を残したい、という気持ちがあるんです。きちんとしなきゃ、ああしなきゃ、こうしなきゃって、力んでしまう。その上で、相手の求めているものを推し量って、それに合わせることばかり考えていました」
 ところが、昨日も話に出た映画『台風家族』のオーディションでは。
「〝役作りをしないで来て下さい〟っていう監督の希望があったんです。ですから私思い切って、渡された台本を1回だけ読んで、ぱたっと閉じて、何もしないで行ったんですよ。そんなことするの、初めてでした。だからめっちゃ緊張してしまって、全身に汗をかいて、〝台本を読んでみてください〟って言われて読む中で、簡単な漢字を読み間違えてしまって(笑)」
 その場にいた全員が、大爆笑。するとそこで、長内映里香の緊張の糸がプツッと切れた。
「もういいやって、良い意味で開き直ったんですね。そこからはプライベートな話で盛り上がって、後日オーディション合格の連絡がきました。映画のパンフレットにプロデューサーが私のことを〝169センチのスラッとした美人系だが話すと中身が三枚目〟と書いてあって。オーディションでそういう自分を出せたことも、すごくうれしかったんです。そのことが、この3年間で一番の大変化じゃないかな」
 要は、自分が自分であること。長所や美点だけでなく、欠点も弱点も隠さずに、これが私、と言い切れること。未熟で未完成な自分をまんま引き受け、取りつくろうことを止めた瞬間から、長内映里香は変わったのだ。
「私自身が、映画や舞台を観ていて、すごく良いなと思う瞬間は、そこなんですよね。登場する人が必ずしも完璧な人間じゃなく、ダメなところがぽろっと出た時に、ほっとする。共感できる。あ、これでもいいんだ、こういう人も魅力的なんだって思える。だから自分も大丈夫って安心できるんです」