エイコは2012年に武蔵野音楽大学ピアノ科を卒業。3年間ピアノ講師として働いた後、バークリーをめざした。
「大学で学んでいたのはクラシックなのですが、キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』というアルバムを聴いたとき、〝この人、すごい!〟と衝撃を受けたんです。書かれているものをそのまま演奏するのではなく、即興で演奏する、自分で音を生み出すジャンルがあるらしい、と知って、そこからジャズの世界に足を踏み入れました。そのキース・ジャレットが実はバークリーで勉強した時期があると知って、どんな学校なのだろうと興味を持ったんです。じゃあそこに自分も行こう、とまではなかなか思い切れず、ピアノ講師になったのですが、どうしてもあの、気になりまして」
 バークリーでの一番の思い出は、大好きなマリア・シュナイダーのワークショップに代表生徒として参加したこと。だけど3年の間に、楽しい思い出ばかりではなかった。
「けっこうメンタルが弱いんです、体力はあるんですけど(笑)。作曲科だったので、課題を出されても曲が書けないときは追い込まれて、眼の下にクマを作ってました。ビッグバンドのための曲を作るときには、曲を作って楽器ごとに譜面をつくって演奏してもらって、それを提出しなきゃいけない。今思えばもっと手抜きしても良かったんですが、不器用すぎて、真剣にやりすぎて」
 夜中、キッチンの冷蔵庫の前に座り込んで、エリコに愚痴を聞いてもらうことで、なんとかバランスを取っていたという。
「今も、エリコのメンタルの強さに救われています。本番前にも、私はすごいあがり症なんですけど、エリコが『エイコさん、大丈夫、私が全部、なんとかするから!』って言ってくれて、おかげで思いきり弾けるんです。ですから私たち、フィジカルのエイコ、メンタルのエリコ、と呼ばれていました(笑)」
『EIKO+ERIKO』のオリジナル曲はどれも、ふたりで作っている。作曲学科を出たエイコによると
「曲を作っていくと、いつの間にか自分の好きなものしか書けなくなってくるんです、どんどん。でもエリコと一緒に演奏し、曲も一緒につくるようになって、作る曲の幅が広がりました。私だけだったら絶対思いつかないようなアイデアをエリコが出してくれますから。それにエリコはすごい早弾きだし、うまいから、〝これ、エリコなら弾けるかな〟ってすごい難しいフレーズを書いたり(笑)。ふたりでいることが、すごくプラスに作用してます」