佐藤の白樺の絵が展示されていたのは、今年2月20日から3月3日まで神奈川県民ホールギャラリーで開かれていた『META展』にて。〈日本画のワイルドカード〉という副題がついていた。出展していた11人のアーティストは全員日本画科の出身で、だけどその作品は、前衛的だったりオリエンタルだったり深遠だったり混沌だったり。
 いったい日本画の定義って、なんですか?
「難しいです。それについてはシンポジウムも開かれていて、なかなかひと言では言えません。何をもって日本画とするのか、画材なのか、屏風とか掛け軸などのスタイルなのか、内容なのか。すごくこう、曖昧です」
 明治時代に西洋から入ってきた絵を洋画と呼び、それに対して日本の絵の独自性を示すために〈日本画〉という言葉が生まれたという。だから明治より前の絵は全部、日本画。ざっくりしてる。最近は伝統的な手法の中にイラストとかアニメっぽい要素を取り入れる作家も多いし、日本の美術界はこの先、日本画と洋画のカオスの中からすごい才能がいっぱい出てくる可能性を秘めている。
「フィンランドでも僕の作品を見たときに、日本的なものを感じる、という方は多いです。たとえば作品にある緊張感とか、ブラック&ホワイトの世界観とか、空間の、余白の使い方とか。もしかしたらそれが僕の中のアイデンティティなのか、とも思いますし。長沢蘆雪や長谷川等伯とか、北斎とか若冲とか、好きな画家たちから吸収したエッセンスが、どこかに出ているのかも知れないけれど(笑)」
 この展覧会のために日本に戻ってきたという佐藤が、久しぶりに日本で楽しんでいるのは、日本のお風呂。
「銭湯に行ったり、あと、温泉にも浸かりたいです。フィンランドはサウナとシャワーだけで、湯船がないんですよ。日本のお風呂、最高です。サウナより絶対良いと思うんですけど、ね(笑)」
 現在は川口市内にある佐藤のアトリエに収納されているという白樺の絵『koivumaisema』、今後、見るチャンスがあったら是非、見て欲しい。現代の日本画の粋が、そこにあるから。

  • 出演 :佐藤裕一郎 さとう ゆういちろう

    1979年山形県生まれ。2005年東北芸術工科大学大学院日本画研究領域修了。第3回トリエンナーレ豊橋星野眞吾賞展優秀賞。以後、日本各地で個展を開いてきた。2016年文化庁新進芸術家海外研修員としてフィンランド・ユヴァスキュラに滞在。研修期間を終えた後もフィンランド・ラウカーに在住し、精力的に創作活動中。フィンランド国内で個展を開いている。

    ホームページ https://www.yuichirosato.net/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/