佐藤裕一郎が画家を目指したのは、高校生の頃。それまでまったく美術というものに関心が無かったという。小さい頃から絵を描くのが好きだったものの、
「1番最初はドラゴンボールの絵とか、そういうのを描くのがすごく好きでした。まわりの友達も僕の絵を上手だ上手だって褒めてくれるので、自分は絵が得意だとは思っていたんですが、だからって本格的にやるつもりはなかった。高校のときはバスケとか、陸上部で走り高跳びに熱中してました」
 ところが高校最後のインターハイへの出場を逃し、佐藤は目標を失ってしまう。進路を決めなければならない土壇場にきて、自分は絵を描くことが好きだった、と思い出した。
「それで美大にチャレンジしたんですが、全然基本がなっていなかったので、当然、落ちました。翌年予備校でみっちり基本を学んで、やっと入れたんです」
 そこで選んだのが、日本画科。って、どうして?
「美大って油絵科と日本画科、ふたつから選択するんですけど、油絵っていうのはどうしても馴染みがなくて。油絵のベタベタした感じよりは、こう、水彩絵の具っぽい、さらっとした日本画のほうがいいかなって」
 〈ベタベタ〉とか〈さらっと〉とか、佐藤がこだわるのは触感、質感、絵を描く素材。
「日本画のことなんて作家も作品も、大学に入る前は何も知らなかったんですが、使われている素材に惹かれました。展覧会に行って、岩絵の具というものに出会ったんです。日本画特有の画材で、鉱物を粉砕して、粒子を細かくして、膠と混ぜて塗っていく絵の具なんですけど、それがすごいんです。粒子が粗いので、スポットライトが当たると乱反射して、キラキラする。遠目で見るとマットな仕上がりなのに、近づいてみるとキラキラッと光っていて、宝石のようで。そういう素材の魅力っていうのか、それに惹かれて日本画をやろうと思いました」
 素材愛がこうじて、アーティストとしてひとり立ちしてからは、パネルに土や砂、鉄、顔料、岩絵の具を塗り込み、布や紙、ベニヤなどを貼り重ね、それを剥がし、削り取り・・・・。
作品に表現されているのは具象ではなく、抽象。佐藤裕一郎は徹底的に素材にこだわりながら、創作活動を続けてきたのだ。