フィンランドに行ったのは、3年前のこと。
「最初のきっかけは、文部科学省の海外研修員として、です。フィンランドは僕自身が希望しました。僕は東北の山形県の出身で、やはり北の風景にすごく惹かれるんです。そういうところに身を置いて製作に打ち込みたいという思いがありまして、はい。行ってみたら本当に美しいところで、木々があって湖があって、良い意味で、それしかないような国です」
 人々の暮らしも、きわめてシンプル。休みの日は湖でボートに乗り、森の中を散歩したり、ベリーを摘んだりキノコを採ったり。そんな生活を送っているうちに、佐藤は〝これを描きたい!〟というものを見つけた。湖畔に立つ、白樺の古木だ。
「今まで抽象画ばかり描いていたのに、そんなのはどこかに吹っ飛んでしまった。未知の土地でもう一度自分に向き合って、自分自身を確かめるような時間があって、自分がリセットされてしまったのかもしれません。日本にいるときは展覧会の予定が先にあって、それに合わせて創作に追われる日々だったけれど、そういうことではなくて、本当に自分が描きたいと思えるものを描く。子どもが絵を描くように、これは美しい、という想いだけで絵を描く。それはもう誰かに見せるためのものではなくて、自分の中だけの作業というか」
 そのとき描いたデッサンを見たフィンランド人の友人は、『これはフィンランド人の心の絵だ』絶賛してくれたという。白樺と湖は、フィンランド人の誇り。日本人の桜のようなものかもしれない。以来、鉛筆で描く白樺は、佐藤の財産となった。研修として過ごす1年間を終えてからもフィンランドに留まることを選び、そろそろ丸3年が経つ。
 それにしても、白樺って、こんなに枝がありましたっけ?
「フィンランドの白樺は、みんなこうです。本当にたくさん白樺が生えていて、厳しい寒さや強風に耐えているせいか、古木が多いせいか、どれも皮が剥がれてむき出しで、ゴツゴツしている。それがまた良いんです」