3 ドイツで落語修業
橋本恵史
- Magazine ID: 3847
- Posted: 2019.03.20
ドイツリートを究めるために、ドイツに留学していたときのこと。できるだけ日本語を使わない環境に身を置いて、日々努力を重ねていたのだが。
「すっごい日本語が恋しくなったんです。日本語が聴きたくて、初めてYouTubeで落語を、人生で初めて落語を聴きました。桂枝雀さんでした。初めて聴いて、衝撃を受けた。なんて面白いんだ! こんなに面白いものが世の中にあるなんて、知らなかった。今までの人生、損していたって。その日から毎晩毎晩、ずーっと落語を聴いていました。聴いてるうちに、自分でもやりたくなって、ひとりで練習して」
2年半の留学を終え、凱旋コンサートを開催。そこで、
「一部と二部の間の休憩時間、着物着て、座布団の上に座って、落語をやったんです。だってこんなに面白いんだもの、みんなに聴いてもらいたいじゃないですか。で、めちゃくちゃ受けました。その日のコンサートのアンケートに、〈次のコンサートで聴きたい曲はありますか?〉という設問をしたんですけど、書き込まれた答は全部、落語の演目でした。クラシックの曲目を書いた人は、ひとりもいなかった(笑)」
以来、彼のコンサート『橋本恵史のお愉しみ会』は、クラシックの枠にとらわれない超絶エンタテイメントに育っていく。もちろん歌を歌うけど、話も面白い。2千人のホールでも、チケットはソールドアウト。あの世界的指揮者・佐渡裕さんが〝この男のパフォーマンスは国境を超える〟と推薦文を寄せたくらいだ。
2017年には桂文枝師匠に直談判して噺を聴いてもらい、外弟子として〈歌曲亭文十弁 かきょくてい ぶんとうべん〉という名前をもらった。つまりこの橋本恵史、れっきとしたプロの落語家でもあるのだ。この先目指すのは、落語とオペラのさらなる融合。
「落語をオペラにしてみようと思っています。柳家喬太郎師匠の『井戸の茶碗』を聴いたとき、これだ! と思った。登場人物を増やして、枝葉をつけて、もう台本はできあがっています。来年くらいには実現するつもりです」