舞台初日。演劇に対して批評的な私としてはそれほど観たいとも思わないのだけれど、
張り込みのようなことまでやったわけだし、まあこれで観ないというのも大人気ないということで、
吉祥寺まで出かけてゆく。
劇場に入ると驚いたのは出番を直前に控えた出演者たちが物販や会場案内に出ていることだ。
また演出助手や舞台監督という立場の面々もニコニコと慣れない客席案内をやっている。
私も阿佐ヶ谷スパイダースをこれまで一度も観なかったわけではない。
しかし終演後に出演者がTシャツなどを売りに出るということはあれど、
出番の前に客前に出ているなんてことは一度もなかった。それも皆同じTシャツを着て・・・・。
まるで学園祭である。
しかし長塚氏から聞いているこの劇団の、特にスタッフ陣は、
日本の演劇界でもかなりの実力者たちばかりである。
また長塚や中村にもそれなりの経験値がある。それが学園祭ノリでいいのだろうか。
私は新作「MAKOTO」終演後、再びTシャツ姿の劇団員たちとお客さんで賑わうロビーを足早に出、
吉祥寺の駅近くで長塚くんを待ち伏せた。
やがてふらふらとホロ酔いでやって着た長塚くんに問い詰めた。
「君は一体この劇団阿佐ヶ谷スパイダースで何をするつもりだ!?学園祭か!?」
「わあ葛河先生、へへ、学園祭でもいいんですよ。年に一回ですからね。
けど学園じゃないから劇団祭か。しかし毎回渾身の劇団祭をやりますよ。
阿佐ヶ谷スパイダースは別に名を上げたいわけじゃない。
ただ創りたいものを面白く創って、お客様と盛り上がりたいのです。
それよりもハーモニカ横丁で一杯どうですか先生」
なんだかこの気の抜けたような長塚くんの言葉に、私はなんだか頼もしいような、
それでいてやっぱり間違っているような、でもまあいいかという気分になったので、
そのままハーモニカ横丁で終電を忘れて飲んでしまった。
阿佐ケ谷スパイダースはまた来年もこの吉祥寺で何やら全然違うようなことをやるらしい。
私は行くつもりもないが、まあでもあの若者たちが、
この集団がどうなって行くのか、気にならないわけでもないのかもしれない。

  • 出演 :阿佐ヶ谷スパイダース  あさがやすぱいだーす

    1996年、長塚圭史と伊達暁を中心に〈演劇プロデュース・ユニット〉として結成、「アジャピー・ト・オジョパ」にて旗揚げ。1998年より中山祐一朗が参加。2004年、長塚が第15回公演「はたらくおとこ」の作・演出にて第4回朝日舞台芸術賞などを受賞。2016年までに全25作品を上演。2017年5月、旧知の仲間がメンバーとして加入し、‹劇団〉化。2018年、オーディションを経た新メンバー加入。同年8月「MAKOTO」上演。

  • 公式ホームページ・http://asagayaspiders.com/

  • 【公演情報】 阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」
    作・演出:長塚圭史
出演:中村まこと、大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫真弓子、伊達暁、ちすん、長塚圭史、中山祐一朗、藤間爽子、森一生、李千鶴

    東京公演:2018年8月9日(木)~20日(月)吉祥寺シアター
大阪公演:2018年8月25日(土)・26日(日)近鉄アート館
新潟公演:2018年9月1日(土)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
    神奈川公演:2018年9月7日(金)~9日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
    まつもと公演:2018年9月29日(土)・30日(日)まつもと市民芸術館

    公演詳細について→ http://asagayaspiders.com/stage.html

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  •  

    文:葛河梨池

    小説家。葛河思潮社代表。虚構と現実を演劇的に旅することが可能な数少ない作家である。恐怖小説で人気を博した。近作に『小夜更方棘奇譚』など。現在は壮大な幻想小説の構想に着手している。長塚圭史の作品『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』や『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』に登場した。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/