その大好きなニューヨークから、小澤真智子は昨年末まで約3年半ほど、距離を置いていた。2014年8月、音楽のパートナーであり、婚約者でもあったアルゼンチン人のタンゴ・ピアニスト、オクタビオ・ブルーネッティ氏が急逝するという悲劇があったのだ。
「100点満点の彼で、私とは似たもの同士で、その日食べたいものとか飲みたいものまで同じくらい相性が良くて、糊でくっついたみたいに8年間、一緒に生きていたんです。ご飯も作ってくれるし、ステージに上がる前は必ず冷たくなる私の手を、いつも包んで温めてくれる、ホカロンだった。その優しい彼が突然いなくなってしまったものだから、一時はヴァイオリンも弾きたくない、もうタンゴは演奏しないって思った。湖ができるくらい、泣きました」
 ワシントンDCに移り、アーティスト・イン・レジデンスとして1日1日を生きるうちに、少しずつ少しずつ、生きる感覚が戻ってきたという。
「4年経って、変化がありました。それまではずっと、彼の不在を嘆いていたけれど、今は、彼が自分の中に、完全に入り込んで、同化してしまったように感じる。不思議な感覚ですが、本当に、彼がいつも自分と一緒にいるのを実感しています。それと同時に元気が出てきて、ニューヨークにまた戻りました。だって私は、生きていかないといけないんです、有無を言わさず。多分オクタビオも、元気になって歩き出す私を喜んでくれていると思います」
 小澤真智子は再び、チャレンジャーとしてニューヨークの街を歩き始めた。
「これから先、何を始めるんでしょうね? わからないですよ、ひょっとしたらフラメンコかもしれない、ハワイアンになっちゃうかもしれない(笑)。次に何が出てくるか、自分でもわからないけど、もう、大丈夫。日本のみなさん、私のコンサート情報を見つけたらぜひ、観に来て下さいね!」

  • 出演 :小澤真智子  おざわ まちこ

    ニューヨーク在住のヴァオリニスト。東京藝術大学卒業後、ロンドン・ギルドホール音楽院にてアーティスト・ディプロマ、ニューヨーク・ジュリアード音楽院にて修士号を取得。タングルウッド、アスペンとはじめとする海外の音楽祭に奨学生として参加。卒業後、2004年から2006年までメキシコ・シナロア州立交響楽団第1コンサートマスターとして活躍。2002年アメリカ、アーティストインターナショナル主催コンクールで優勝。2011年初アルバム『URBAN TANGO TRIO』をリリース。2015年からワシントンDCのS&R財団アーティスト・イン・レジデンスとして活躍。2018年日経ミューズサロン、昭和女子大人見記念講堂、鎌倉芸術館などで「小澤真智子旅するヴァイオリン タンゴ&ビヨンド」公演を成功させた。

  • 公式ホームページ(FB ・YOUTUBE・インスタグラムほかリンクボタンあり) https://machiko-ozawa.squarespace.com/about-machikoozawa/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/