彼女のホームページから演奏風景のリストを見ると、一番最初に『タップダンス･ヴァイオリン』という項目が出てくる。『なんじゃ、こりゃ？』だ。ヴァイオリンを弾きながら、タップダンスしている！　しかも、ヴァイオリンは当然のことながら、タップもそこそこ、いやかなり本格的だ。
「芸大（東京藝術大学）の４年生のときに、ああそろそろ大学生活も終わりだな、卒業前になにかやりたいな、と思ったときに、フラメンコとタップダンスを思いついたんです。で、芸大の中にあるフラメンコ部に行ってみたら、色っぽいお姉さんたちが集まっていて、ここはちょっと違うな、と。そこで当時あった『ケイコとマナブ』という雑誌でタップダンス教室を探して、無料体験クラスに行きました。行ったその日からドハマリしたんです。レッスンの第一歩はつま先と踵でタカッという音を出すんですけど、それが難しくてなかなか足が思うように動かない。簡単じゃないから、よけいハマったんですね。メトロノームと一緒に練習したりして、だんだんできるようになると、みんなに見せたいから、芸大の廊下でこう、タカタカ踊っていると、先生が出てきて『小澤、うるさいぞ！』って叱られたり」
　芸大を卒業後は、ロンドンのギルドホール音楽院に留学。さらにニューヨークのジュリアード音楽院でヴァイオリンに磨きをかけた。
「実はニューヨークに行ったのも、タップダンスを見るためにロンドンからニューヨークに行って、そのまま居ついてしまったんです。タップといっても、あのジーン･ケリーとかフレッド・アステアみたいなスタイルではなく、私が憧れたのは『ノイズ・アンド・ファンク』という舞台を制作・主演したセヴィアン・グローバーみたいなリズム・タップ。まるで打楽器みたいで、すごくカッコいいんですよ！」
　初めてタップダンス・ヴァイオリンを披露したのは、ジュリアードを卒院後、ニューヨーク市内で開いた自身のライブ公演中。
「ニュ-ヨークというところは、常に新しいものを聴衆が求めているので、新しい分野を開拓したかったんです。タップダンス好きだし、ヴァイオリンも大好きだから、じゃあ一緒にやってしまえ、と（笑）。いざやってみたら、一番前で見ていたお客さんは〝うわっ〟って、ビックリしてました。それが楽しくて！　でも大事なのは、やり過ぎないことですね。１曲か２曲で終わりにします。真剣にその道を歩んでいる人に比べたらそんなもう、足元にも及ばないので、申し訳なくて」