南はもともと、音楽少女。小さい頃からピアノを習っていて、音楽大学を目指していた。
「でも高校生のとき、音大に入るには歌も必要だと知って、それであっさり諦めました。みんなと一緒にふつうの大学に進学して、選んだのは心理学です。４年間きっちり勉強して、卒論は『好きな色と性格の関係性』。その時々で好きな色が変わったり、色によって物の印象が変わったりするのがすごい不思議だなって、ずっと色に興味があったんですよ」
　卒業後は、旅行代理店に就職した。
「本当はクリエイティブな仕事がしたかったんですけど、専門分野を学んでいないので、当然無理だろうって諦めました。向いているのは営業かな、と。旅行関係なら、もしかしたらパンフレットとか作らせてもらえるかもしれないし」
　配属されたのは、大手旅行会社の大阪支店。そこでみっちり、鍛えられた。
「就職氷河期で、新入社員は私ひとり。海外研修とか行かせてもらえて、可愛がってもらえたんですけど、仕事も最初から大変でした。仕事は飛び込み営業で自分で取ってくる。そして行程を作るのも自分、見積もりを作るのも自分、添乗員も自分、アフターケアも自分。何も無いところから旅を作って、それを楽しんでいるお客さまたちを目の当たりに出来るんですから、すっごいクリエイティブでした！（笑）」
　なんと、初めて添乗員として同行したのが、香港・マカオの旅50人。入社したての女の子が、行ったこともない香港マカオで、50人のツアー客を引率するとは！
「事前調べを徹底してやりました。ＹｏｕＴｕｂｅで、例えば香港からマカオに行く高速船の乗り継ぎ通路を、何回も見ておくんです。バーチャルですけど、もう何度も来ているような顔ができました（笑）。あと、人に頼ることも覚えましたね。お客さんの中には必ず、リーダー的な人がいるんです。その人と仲良くなって味方になってもらえれば、その人がまとめてくれるんです、みんなを」
　どんどん仕事を覚えて、どんどんスキルアップして、3年後には最優秀新人社員賞を獲得。
　と、そこで、南の足が止まった。
「この会社で出世したいわけでもないし、朝の通勤ラッシュと深夜帰宅の連続だし、休日返上の用事も多いし、体力的にすっごくシンドい。評価してもらって、もう目指すところはないし、だったら辞めて、30歳まで好きなことしようかなって」