#2 はじまりは1本のワインの瓶
MOEKOOSAWA
- Magazine ID: 3611
- Posted: 2017.09.26
MOEKOのキャリアの始まりは、Embellitle(エンベリトル)。ワインやシャンパンのボトルに贈られる相手の嗜好に合わせてデザインを描き下ろしたメッセージを、スワロフスキー社製クリスタルラインストーンで、1粒1粒丁寧に装飾を施す、贈答品用ボトル加工アートワークだ。そこにもまた、MOEKOの波瀾万丈ドラマがあった。
「2005年の3月からオーストラリアのシドニーに留学したんです。その間、人間関係のトラブルに巻き込まれ、しばらく住む家がなかった時期が数週間ありました。当時21歳で世の中がよくわかっていませんでしたし、現地に知り合いはひとりもいませんでしたから。夏だったし、ビーチにはバーベキューハウスみたいな小屋があるから、ここで寝ればいい、昼間は学校があるしって、ホームレス生活です。小金を稼ぐために巻き寿司巻いてビーチで売ったり、ペディキュアしたり。ホームレスのオッちゃんたちと缶拾ったり。無知な私に「生きる知識」「安心して寝れる場所」を教えてくれたのは、語学学校ではなく、温かく迎え入れて仲間にしてくれた現地の人たちでした。そんな日銭稼ぎに明け暮れてた時、たまたまそこで、モデルにスカウトされました。それは私のルックスが認められたんじゃなくて、当時アジア人の景気が良かったから、アジア系顧客に対応するための特別採用だったんですけど。で、モデル仲間のアナっていう子のお誕生日会があって、豪華なクルーザーを貸し切りにして、ハイブランドのデザイナーなんかが来るんです。でも私はプレゼントを買うお金もそんなになくて、だから売ってないモノ、お金で買えない特別なモノを自分で創ってプレゼントを用意するしかない! と、ビーチでネイルアートして稼ぐ用にチャイナタウンで安く買ったビーズやアクリルストーンを、シェアハウスにあった安ワインボトルのラベルがゴージャスに見えるように、前日の夜に徹夜で貼って装飾加工したんです。
アナがすごく喜んでくれて、『今日ここに来ている人たちは誰も私のために来ているわけじゃない。みんな新しいスポンサーを獲るためとか、誰かに会うために来てる。でもMOEKOは昨日の晩にわたしのことを考えて、私のために時間を使ってこれを使ってくれたんだね、ありがとう』って言ってくれた。それが最初の1本です。するとそれを見た人が、『これなに? すごいね! どこで売ってるの? 来週僕の誕生日があるから、20本作ってよ。100万くらいでいい?』って。他にはない、これしかない、付加価値っていうものにそのとき気づかされたんです。そのまま、よくわからない金銭感覚のまま、向こうでブランドを立ちあげました」
その後、日本でも同じようにエンベリトルのスタジオを立ちあげた。アイデアとしては簡単だから、知れ渡ると同時に、似たようなものを真似する人間が続出。でもMOEKOのエンベリトルは、ひと味もふた味も違う。まったく異質なモノと言ってもいい。
「他人様にお金をもらって創らせてもらっている以上、コレくらいだったら器用だったら手作りできるよね。と思われるクオリティーでは絶対いけない」
そのために、ラインストーンの光源知識や、グラフィックデザイン技術、立体造形に必要な道具の探求、日々進化しつづけるためにアレやコレや勉強してきたことで、アーティストとしての活動の幅も広がりました。すべては最高のエンベリトルを創るため。ポリシーは、現社訓の「満足よりも感動のあるモノ創り」。「こんなんどうやって創ってるの?!」っていう驚きが、商品としての価値であり、またそれを贈られた人の心に確実に特別な思いを届けると信じてますから。
ふだん言葉で伝えられない想いを、記念日にちゃんと伝わるものを作りたい、というのがブランドの軸になっています。もらった人が、〝私のことこれだけ思ってくれているんだ〟って幸せな気持ちになれるようなモノ。気持ちを伝える触媒を作っているつもりです。だから、量産された、いつでもどこでも買えるようなものではなくて、オーダーメイドで、カスタムメイド。贈る相手の趣味や好みを聞いた上で、作ります。ボトルが起業のはじまりで、その後いろいろな事業を展開していますけど、基本は同じ。形にならない気持ちを目に見えるモノに変えるのが仕事です。だから私の肩書きは、ヴィジュアル・クリエイター。このルックスでビジュアルって言うと〝あ、ビジュアル系ね!〟って、簡単に誤解されちゃうんですけどね(笑)」
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出演 :MOEKOOSAWA おおさわ もえこ
ヴィジュアル・クリエイター(デザイナー)。2005年11月オーストラリアでクリスタル装飾(デコ)アートブランド『HIME(ハイミ)since2005』を創設。2009年より『StudioHIME』と改名し、京都&東京を拠点にオーダーメイド贈答品制作専門店として展開。2012年、自社ブランド及び、自身のアーティスト活動の場をハリウッドへ移籍、2013年総合デザイン会社『株式会社MOEKOOSAWA』を創立。代表取締役に就任。2017年4月、東久邇宮記念賞受賞。
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撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/