91年のデビューコンサート以来、今年で26年。超絶技巧とか現代音楽とかいろいろ弾いてきたけれど、一番楽しいのは、シンプルな曲を演奏しているときだという。
「モーツァルトの『トルコ行進曲』とか、『アマリリス』とかね。子どもでも弾けるような曲を弾く時に幸せを感じます。難曲を力でねじ伏せるようなのは、好きでない。誰でも弾けそうな曲の中に、独自のテクニックを注ぎ込むのが楽しいんです。ディテールの勝負かな。その積み重ねで、お客さまに「よかった、また聴きたい」と思ってもらえれば嬉しいですね」
本物は、声高に自分の価値を主張したりしない。わかる人にだけわかるその良さを秘めて、あるべき場所にあるのが、本物。時を経て価値を増すのが、本物なのだ。
そういえば通崎は今まで、生まれ育った京都を離れようとは、一度も思ったことが無いという。
「音楽やっている人は留学する人が多いですよね。勉強したいものがそこにあるから、だと思います。でも私は自分の中にやるべきことが残っているし、別にそれを助けてもらうのに外国に行く必要がなかった。これとこれができるようになりたい、ということがいくつかあるけど、ここにいけば、と思える土地が思いつかなかったんです。それは私の知識不足や興味の浅さかもしれないけれど。音楽祭に誘われても、楽器を運ぶのが面倒だし、いいや、ってパスしてきました。だから私、パスポートすら持っていないんです(笑)」
 そんな通崎が来年4月、ニューヨーク郊外の街に行くことになった。今のところ、たった1度のコンサートを開くため、行くことにしたという。
「お呼びがかかって、断る理由がないな、と思ったので、すんなり行く気になりました。今行けば、平岡の木琴をラジオで聴いていた人が、まだいるかもしれない。それはちょっと楽しみなんです」

  • 出演 :通崎睦美 つうざき むつみ

    1967年京都市生まれ。5歳よりマリンバを始める。1992年京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。セルフプロデュースでマリンバの演奏活動を続けてきたが、
    2005年木琴の巨匠・平岡養一が初演した紙恭輔『木琴協奏曲』(1944)を平岡の木琴で演奏。その木琴と楽譜、マレットを譲り受けた。以後、木琴の新たな可能性を探って演奏活動を続けている。13年9月『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』を講談社から上梓。第24回吉田秀和賞、第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)をダブル受賞した。アンティーク着物のコレクターとしても知られている。

    【コンサート情報】
    木琴×箏&アコーディオン 通崎睦美コンサート「今、甦る! 木琴デイズ」vol.8~アンコールⅠ~ 
    2017年10月26日①14時開演②19時開演 京都文化博物館別館ホール
    http://www.otonowa.co.jp/schedule/tsuuzaki

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 https://itunes.apple.com/us/app/yeo-xie-zhen-ji-shi-lian-zai/id1188606002?mt=8

    Android版 https://play.google.com/store/apps/details?id=com.alphawave.yeo_android&hl=ja

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/