#2 木琴デイズ
通崎睦美
- Magazine ID: 3596
- Posted: 2017.09.05
70年代にマリンバを始め、80年代には現代音楽に次々とトライ。90年代には自らさまざまな作曲家にマリンバのための新作を依嘱し、可能性を追求。つまりどっぷりとマリンバにハマっていた通崎が木琴と出逢ったのは、2005年のこと。
指揮者・井上道義が東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で紙恭輔『木琴協奏曲』をとりあげ、ソリストとして通崎を指名したのだ。しかも使う楽器は、平岡養一の木琴。その木琴でしか、その曲は弾けないという。
平岡養一は、明治40年生まれの木琴奏者。独学でマスターし、昭和初期に渡米してアメリカ3大ネットワークのひとつNBCの専属アーティストとなった。毎朝15分のラジオの生放送番組で木琴を演奏し〈全米の少年少女は平岡の木琴で目を覚ます〉と言われるほどの人気者に。第2次世界大戦を機に帰国するが戦後再び渡米し、日本でもアメリカでも、木琴奏者として愛され続けたという。
その平岡が遺した木琴を演奏した通崎は、その音色に惚れ込んだ。〝演奏会が終わってもこの楽器を手放したくない〟と思い、木琴を所有していた平岡の遺族側にも〝実際に弾いてくれる人に譲りたい〟という思いがあった。演奏会からひと月後、平岡の木琴は通崎のものになった。
以来、通崎は自身の演奏会でマリンバと木琴、双方の演奏を披露するようになり、それがいつしか木琴ひと筋になっていた、というわけ。
それだけではない。通崎は自分が出逢った木琴、そして平岡養一という存在が、このまま忘れ去られていくのを黙って見ていられなかった。
「書こうと思いました。誰にも頼まれていないから、締め切りがないと張り合いがない。検索したら小学館ノンフィクション大賞というのがあって、500万円の賞金。それに応募したんです。すると300作品中4作品に残って、でも3位か4位だったのかな、賞金ゼロでした。そこからまたがんばって加筆して、一冊の本に仕上げたんです」
『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』(講談社)は第24回吉田秀和賞、第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)をダブル受賞。
「もともと私、捕まえに行くタイプなんですよ。欲しいものはとことん自分から追いかける。でも『木琴デイズ』を書くことだけは、なんか平岡さんに捕らえられたような気がします。逃れられない、書き終わるまで放してもらえないような感じでしたね(笑)」
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出演 :通崎睦美 つうざき むつみ
1967年京都市生まれ。5歳よりマリンバを始める。1992年京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。セルフプロデュースでマリンバの演奏活動を続けてきたが、
2005年木琴の巨匠・平岡養一が初演した紙恭輔『木琴協奏曲』(1944)を平岡の木琴で演奏。その木琴と楽譜、マレットを譲り受けた。以後、木琴の新たな可能性を探って演奏活動を続けている。13年9月『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』を講談社から上梓。第24回吉田秀和賞、第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)をダブル受賞した。アンティーク着物のコレクターとしても知られている。
【コンサート情報】
木琴×箏&アコーディオン 通崎睦美コンサート「今、甦る! 木琴デイズ」vol.8~アンコールⅠ~
2017年10月26日①14時開演②19時開演 京都文化博物館別館ホール
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取材/文:岡本麻佑
国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/