新ロイヤル大衆舎旗揚げ公演『王将』メイキングのしんがりは、この4人。演出の長塚圭史(中央)曰く〝シンボル的脇役〟をつとめる面々だ。
長塚自身、1部で俳優として〈関根名人〉を演じる。まだ市井の将棋指しとしてテングになっていた坂田三吉の前に立ちふさがり、本気で将棋を勉強しようと奮起させる男だ。
その関根名人の後を継ぎ、三吉の弟子と競い合う〈木村名人〉役には、古河耕史(左端)。関西ベースの物語の中、東京モンの存在感を背負って登場する。
「三吉がずっと欲しがっていた名人位をほいほい継いじゃって、苦労知らずのエリート面した憎いヤツ、みたいな役回りです。とはいえ当時、将棋指しはまだそれほど世間で認められている存在ではありませんし、実在のご本人も貧しい下駄屋の生まれです。とにかく将棋が好き、という根本の思いは三吉たちと一緒なので、短い出番の中、そこまで演じきれるといいんですけど」(古河)
 キャリア40年を超えるベテラン俳優・陰山泰(左から2番目)は、世話人の西村を演じる。ざこばの大将であり、坂田三吉をアホ呼ばわりしながら関西名人に持ち上げ、東京サイドの不興を買うと、いきなり手のひらを返す嫌なヤツ。
「1番の憎まれ役です。(長塚)圭史クンが言うには〝悪いヤツなので、良い人が演じるほうが凄みが出る〟って、おだてられてやってます(笑)」(陰山)
陰山にとって『王将』は、20年以上前から幾度となく読み返してきた、奥行きのある素晴らしい戯曲だという。
「坂田三吉の人生は、不条理の連続なんです。強いのに認められない。持ち上げられたらハシゴを外される。頑張ったところで、何も報われない。三吉はアホだアホだと言われますけど、それもまた、世間から疎外される三吉の人生の不条理の象徴のように僕は感じています。ま、僕の演じる西村が率先してアホ呼ばわりするんですが(笑)。でも不条理というのは、すべての人間が負っているものでもあります。だからこの芝居、演じたくなる、観たくなるんです」(陰山)
 ちなみに陰山泰と古河耕史は、ひと役だけ。他の俳優たちが7役から8役、人によっては10役以上こなす一方でたったひと役なのは、この役の個性をくっきりと印象づけるため。逆にプレッシャーはハンパないはずだ。
 そして、高木稟(右端)。うどん屋新吉と三吉の後妻・まさを演じる。まさは、亡くなった女房小春とは似ても似つかない、リアルな女。つまり、常盤貴子のあとがまですね?
「はい、そうなんです(笑)。女の人の役、コントでしか演じたことないんですけど・・・・」
 稽古場をチラッと覗いたら、高木のまさ役はピッタリ! だった。
「僕はもともとチャップリンが好きで、子どもの頃親にそう言ったらなぜか『ミヤコ蝶々劇団』に入れられ、9歳から大学卒業するまでそこで人情喜劇みたいなものやっていたんです。だからこの役を演じる僕に、今は亡き蝶々先生のエキスがしみ込んでいる、と、思いたいです。天国の蝶々先生、僕に力を貸して下さい!」(高木)
 大好きな芝居に打ち込んで、お金や名声よりも大事な何かを、演劇の中に見つけている。『王将』に出演する俳優18名、さらにそれを支えるスタッフたちはみんな、多かれ少なかれ、坂田三吉とどこか似ている。

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 今回、小劇場で18日間の公演なので、実際に生で『王将』を観劇できる人は、ごくわずか。それにそもそも芝居の面白さを、写真と文章だけで伝えきれるものではない。それを承知で今回YEOが『王将』を追いかけたのは、演劇の面白さを少しでも多くの人に知って欲しかったから。こんなに面白い人たちが、こんなに一生懸命作っていることを、伝えたかったから。機会があったらぜひあなたも、劇場に足を運んでみて下さい。ちなみに、当日券もあるそうです!