ブラインドサッカーの試合会場内に〈体験コーナー〉があったので、やってみた。アイマスクをすると、当然のことながら視界は完全に遮断され、何も見えない。これがボールです、と手渡されて感触を確かめてから、足元に置く。「はーい、こっちに向かって蹴ってくださーい!」という声が聞こえる。ムリムリ、絶対無理! わかんない&できない。とりあえず蹴ってみてからアイマスクを外すと、全然違う方向に転がっていた。たったこれだけの体験で、わかった。何も見えない状態で動くって、すごく大変。

「やってみないとわからないこと、いっぱいあるんです」

 というのは、布施達佳さん。大学3年生だ。サポーターとして手伝うだけでなく、クラブチームの一員として選手もしているという。え! だって、見えてますよね?

「クラブチームは、誰でも参加できます。ブラインドサッカーは、見えない人と見える人が一緒にプレイするサッカーなんですよ。キーパーは弱視者か晴眼者がやって、フィールドプレイヤーは全員アイマスクをします」

 国内にはクラブチームが15あり、そこでは視覚障がい者と健常者がともにアイマスクをした上で活動中。ただし国際試合には、健常者は参加できないという。

「最初はサポートするだけで、自分がサッカーをやるつもりはなかったんです。でもサポートした最初の大会でチームが決勝戦で敗れて、選手の悔し涙をみたことがプレーする原動力になりました。大会に行くと試合数が多くて、メンバーの負担が大きい。少しでも助けになればと思ってプレーにチャレンジするようになりました。でもやってみたら、見ていただけでは想像もつかなかった難しさがありました。自分がどこにいるかわからなくなるんですよ。だから人とぶつかるだけじゃなく、減速しないままフェンスに激突することもある。でも、だからこそ、チャレンジだと思いました」

 アイマスクをしてしまえば、障がい者も健常者も同じ。いや、障がい者のほうが感覚的には優れていることが多い。

「自分が実際プレーしてみて、ピッチが芝のときには足音が聞こえないけど、土になると足音がするのでやりやすいと感じました。すごい選手になると芝でも足音が聞き分けられるし、その他にもボールの位置が音だけでなく、気配でわかるそうです。風向きとか声とか、いろいろなものから、わかるんですね。そういえば以前、目の見えないメンバーのひとりと一緒に、新宿駅に行ったことがあるんです。案内するつもりだったのに僕は迷ってしまって、見えない彼のほうが正確に場所を把握していました (笑)」

 視覚障がい者と一緒に行動することで、布施さんの視界は広がったようだ。

「クラブチームというものがあることを、みんなに知って欲しいです。そこならだれでも一緒にプレイできます。見学に来るだけでも衝撃がありますけど、実際にやってみてわかることが、きっとあります!」

  • NPO法人日本ブラインドサッカー協会 

    オフィシャルサイト  http://www.b-soccer.jp/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/