プロの美容師になって、そろそろ20年。するべきことは山ほどある。

「美容師としてどんどん攻め続けたいし、海外への挑戦だって諦めたくないし、後輩の育成もしなくちゃならない。やるべきことが多すぎて、何を最優先するべきか、どこに向って行くべきなのか、目の前が見えないくらい可能性だらけで、正直、迷走中かもしれませんね(笑)。でもこの仕事、ツライと思ったことは一度もないんです。もちろんできないことがあれば悔しいし、新しい発想のものを吸収していくのは大変です。若い子に人気の今風アレンジなんて、20歳くらいの若手スタッフのほうが感覚的で上手だから、教えてもらうこともあります。常に勉強だし、学びが絶えません。でも、だから面白いんですよ」

 強い味方は、大事にしてきた顧客ひとりひとりだ。

「19歳でスタイリストデビューした、その頃のお客さまの中には今までずっと、19年間僕のいる店に来て下さる方がいます。今はその方のお母様と娘さん、3代で顧客です。途中僕がアシスタントに逆戻りして、掃除ばかりで髪を切れなかった時期にも、店には来てくれました。そのとき、オーナーの鈴木に言われたんです。『当たり前だよ。お客様は、僕たちがハサミを持っているから来てくれるわけじゃないんだ』って」

 この人なら、と思えるからこそ、髪を任せられる。美容師と顧客の関係は、実は、とてもプライベートで細やかで、繊細なつながりなのだ。切っても切れない、その関係こそが、美容業界で成功するために必要不可欠なもの。口コミだけで成功する秘訣は、そこにある。

「生涯現役というのが、僕の秘かな目標です。ずうっと続けて行けば、お客さんとも、オジイチャン&オバアチャンになってもつきあっていける。この仕事、すごくいいと思うんですよね、そういうところが」

  • 出演:新納忠幸(にいの ただゆき)

    1977年11月7日 東京都出身。住田美容専門学校卒。23歳でNY渡米後、資生堂ビューティークリエイターSABFA卒。24歳 AYOMOT入社。2010年 shu uemura Hair & Make Contest最優秀賞。2016年 Schwarzkopf Generation Next選考メンバー。
    プライベートサロンbyAYOMOT

    オフィシャルブログ http://s.ameblo.jp/niinotadayuki/message-board.html

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/