さらに、若村さんと言えば、2011年から自らの手でプロデュースしている『若村麻由美の劇世界』が、チャレンジャブルなライフワークになっている。

 「今年は『平家物語』の中の『千手』という作品を上演します。平重衡と千手の前の一夜限りの悲恋の物語。結果として、重衡は源頼朝の命により処刑されてしまうのですが、たった一夜、心を通わせた重衡のために千手は出家し、生涯、彼の菩提を弔って生きていく。そんな深い愛にあふれる千手を演ずるのも、私にとっては大きな挑戦だと感じています」

 重衡役には狂言師の野村萬斎さんが扮し、山形や名古屋の他、縁の地で上演する予定。

「諸行無常の中で、生き、死ぬことの意味を考えずにはいられない平家物語。中でもこの作品は、処刑を前に心を閉ざした重衡が、千手との出会いによって、歌い、演奏し、舞う中で魂を通わせてゆきます。ヒロインの千手の前という名前は、人生に絶望している人々に慈悲の手を差し伸べる千手観音と同じ。人生は決していいことばかりとは限らない。けれど、必ずや救いがあるということを表現できたらいいですね」

 幼い頃から熱心に日舞を習い、高校生の頃は踊りの世界で身を立てていこうと考えていた若村さん。着物姿での立ち居振る舞いや身のこなしは天下一品。鎌倉時代の物語にも、その姿は自然と溶け込んでいくに違いない。その凛とした姿も、ぜひこの目に焼き付けたい。

  • 出演:若村麻由美(わかむら まゆみ)

    東京都生まれ。無名塾出身。NHK連続テレビ小説『はっさい先生』でヒロインとしてデビュー。エランドール新人賞を皮切りに、数々の賞を受賞。最近の連続ドラマ『沈まぬ太陽』『美しき罠』『ホテルコンシェルジュ』他。映画『臨場』『蒼き狼〜地果て海尽きるまで』『月光の夏』他。舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』『リア王』『マクベス』『オレアナ』『テレーズ・ラカン』『令嬢ジュリー』『カリギュラ』他でヒロインを務め、今年は『頭痛肩こり樋口一葉』幽霊花螢役で出演。05年より原典による『平家物語』をライフワークとしている。また、ヒマラヤトレッキングをきっかけに02年より富士山清掃を継続中。

    

公式サイトhttp://tristone.co.jp/actors/wakamura/
    公式ブログhttp://syunca.at.webry.info/

    「原典・平家物語を聴く会 公式サイトhttp://www.heikemonogatari.jp/

    公演情報

    ①舞台「頭痛肩こり樋口一葉」
    2016年8月5日(金)~25日(木)@日比谷シアタークリエ他全国公演
    http://www.tohostage.com/ichiyo2016/

    ②【松本隆の世界~風のコトダマ~】
    ビルボードライブ東京
    2016年9月1日(木)
    1st 開場17:00 開演18:00
    2nd 開場20:00 開演21:00
    http://www.billboard-japan.com/sp/d_news/detail/37331/2

    スタイリスト:岡のぞみ

    スタイリストアシスタント:田口広菜

    <衣装クレジット>
    ニット帽、ニットプルオーバー、文字プリントブラウス、文字プリントスカート(全て ヒロココシノ)
    白スカート( シッタムール/ストックマン)
    白ブラウス(ヨーロピアン カルチャー/ストックマン)
    白ストール(トランジット パーサッチ/トランジット パーサッチ青山店)

    ヘアメイク:長縄真弓

  • 取材/文:内山靖子

    ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒。在学中よりフリーのライターとして執筆を開始。専門は人物インタビュー、書評、女性の生き方や健康に関するルポなど。現在は、『STORY』『HERS』(ともに光文社)、『婦人公論』(中央公論新社)などで執筆中。単行本やムックも手掛ける。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/