彼女がパリで暮らし始めた頃、日本では妹も独立して実家には母が一人で暮らし。父は早くに他界していた。たまに電話で話す母の咳が止まらないのを心配して「検査に行っておいで」と勧めたが、検査を受けても結果を話そうとしない母。なんだかいやな予感がする。

 やがて母が入院することになったと聞いて、即座に航空券を買って日本へ向かった。

「飛行機のなかでは、自然に涙が流れて、止まりませんでした。朝方、成田に着いてそのまま実家へ向かい、すぐに母を入院させました。主治医に余命を訊ねると、10ヵ月ですと言われて、帰国を決心しました」

 彼女は父を亡くしたときに、野菜ソムリエの資格を取っていた。薬の効果が出ないときに、食べ物で何かできないかと考え、野菜の効能に関心を持ったのだった。そして、母が入院すると、こんどは「病気になる前に何かできることはないのか」と思い、それが薬膳の勉強を始めるきっかけになった。

 
 余命宣告から2年、母は病と闘い、そして旅立った。4人だった家族が妹と2人になったとき、「もう誰かに依存する時代は終わった。これからは、自分のことは自分で守らなければならない」と強く思った。

「両親が亡くなったのは悲しいんですけど、一方で、両親の血が体のなかに入っているから、何があっても大丈夫と思いました。そういう風に思わせてくれる両親に心から感謝しています」

 1年の後に国際薬膳調理師の資格を取得。しかし何故フレンチなのか? それには父の職業が関係していた。

  • 出演:坂井美穂(さかい みほ)

    国際薬膳調理師、フレンチ薬膳プロデューサー。2006年より拠点を日本からパリに移し、モデルとしてパリコレクションなどのショーを中心に活動。現在はフレンチ薬膳プロデューサーとして、身体の内から溢れる美しさや健康を追求した様々なサービスを提案。料理教室やレストランとのコラボレーションイベント・数多くのレシピ提供・商品開発に携わる。テレビ出演等のメディア活動も精力的に展開中。国際薬膳調理師、野菜ソムリエ、パーソナルカラリストの資格を持つ。著書『かんたんフレンチ薬膳 体の内面から美しくなれるレシピ58』(主婦と生活社)。

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  • 取材/文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBの企画、コンテンツ開発、コピーライティング、ディレクション、企業PR誌の編集・制作など。
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  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/