「本当は太鼓なんて、好きでもなんでもなかった」という言葉に、びっくり。
 実は英哲さん、画家になりたかった人なのだ。12歳のときにドラムを練習し始め、エレキバンドを組んだことがあるけれど、一番好きなのはアート。美術学校に通っていた頃、太鼓集団の主宰者に誘われ、一時的な助っ人のつもりで参加したのが始まりだという。社会との接触を禁止され、グループで太鼓修行。とはいえ、専門家が教えてくれたわけではないので、演奏方法は自分で編み出すしかなかった。数年後には海外公演が実現し、林さんは日本の太鼓を新しい解釈で現代のパフォーマンスに作り上げた。
 しかしグループはその後崩壊し、二転三転した後、30歳を目前に英哲さんはグループ活動を停止。ひとりで活動することになったのだ。

「今もアートに触れていると心が落ち着きます。居心地が良いのは太鼓のそばじゃなく、美術館なんですよ。だから感覚としては絵を描くように、太鼓を打っているのかもしれません。ビジュアルにイメージがあって、キャンバスを筆でタッチしているような感覚がどこかにある。みなさんには同じ音にきこえるかもしれないけど、何種類かの音を打ち分けて出すようにしてます。以前、イギリスの指揮者とやったとき、彼は打楽器出身の人だったので、すごく喜んでくれました。あのバチであの高さであれだけ音色を打ち分けるのは信じられないって。やったことのある人は、わかるんです(笑)」

  • 出演:林英哲(はやし えいてつ)

    1952年広島県生まれ。71年『佐渡・鬼太鼓座』の創設に参加。トッププレイヤーとして活動後、81年『鼓童』創成期の演出を担当。82年太鼓独奏者として活動を開始。84年にNY・カーネギーホールデビュー。2000年にはベルリン・フィルと共演。近年では和・洋器楽奏者や伝統芸能の能・歌舞伎等の囃子方、歌舞伎舞踊やコンテンポラリーダンス、バレエのプリンシバルなど、若手アーティストとの共演も多い。今もなおパイオニアとしてジャンルを超えた世界のアーティストやオーケストラと共演しながら、太鼓の新しい音楽を創造しつづけている。CD、DVDなど多数。
    近著に『太鼓日月 独走の軌跡』(講談社刊)ほか。
    2016年には演奏活動45周年、2017年にはソロ活動35周年を迎える。
    オフィシャルサイト http://eitetsu.net

    【コンサート情報】

    林英哲コンサートスペシャル2015(2016年演奏活動45周年前夜祭コンサート)
    『集え! 寿(ことほ)ぎの歌』12月14日(月)Bunkamuraオーチャードホール 開場18:00開演18時30分/特別ゲスト 山下洋輔、上妻宏光
    問い合わせ:東京音協03-5774-3030(平日11:00~17:00)http://t-onkyo.co.jp/

    林英哲コンサート2015
    2015年12月20日 沼津市民文化センター小ホール 開場17:00開演17:30
    問い合わせ:イーストン055-931-8999

    『2016年演奏活動45周年 林英哲 新春スペシャルコンサート2016』
    2016年1月3日 大阪・森ノ宮ピロティホール 12時開場13時開演
    問い合わせ:キョードーインフォメーション0570-200-888

    2016年2月フランス・ナント市で開催されるラ・フォル・ジュルネ出演予定

    2016年11月1日(火)サントリーホールで林英哲演奏活動45周年記念公演、東京公演が決定。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/