神奈川県の山の中に、林英哲の稽古場はある。まずは林道を40分ほどランニング。それから自分で考え出した準備運動をするのだが、これが千回(!)。軽くジャンプしながら全身の関節をゆるめ、血行を良くするという。それをすませてからおもむろに太鼓に向かい、延々と打ち続ける。その音色は明らかに、弟子が打つものとは違っている。

「音の周波数が、胎内にいるときに聞こえる母親の心臓の音と近いらしいです。小さな子供が、客席で聴いているうちに熟睡するという話もよく聞きます」

 たしかにびっくりするほど大きな音なのだけれど、包み込まれるような安らぎを感じる。

「聴く方は、ふつうのメロディがあったり歌詞があったりする音楽を聴くのとは、なにかまったく違う経験をするようです。かつてデザイナーのピエール・カルダンさんは『人生の困難に立ち向かう人間を象徴しているようだ』と言って下さいましたし、『自分の今までの人生を思い出して涙が止まらなかった』という人もたくさんいました。世界中どこの客席にも、泣いている人がいます」

  • 出演:林英哲(はやし えいてつ)

    1952年広島県生まれ。71年『佐渡・鬼太鼓座』の創設に参加。トッププレイヤーとして活動後、81年『鼓童』創成期の演出を担当。82年太鼓独奏者として活動を開始。84年にNY・カーネギーホールデビュー。2000年にはベルリン・フィルと共演。近年では和・洋器楽奏者や伝統芸能の能・歌舞伎等の囃子方、歌舞伎舞踊やコンテンポラリーダンス、バレエのプリンシバルなど、若手アーティストとの共演も多い。今もなおパイオニアとしてジャンルを超えた世界のアーティストやオーケストラと共演しながら、太鼓の新しい音楽を創造しつづけている。CD、DVDなど多数。
    近著に『太鼓日月 独走の軌跡』(講談社刊)ほか。
    2016年には演奏活動45周年、2017年にはソロ活動35周年を迎える。
    オフィシャルサイト http://eitetsu.net

    【コンサート情報】

    林英哲コンサートスペシャル2015(2016年演奏活動45周年前夜祭コンサート)
    『集え! 寿(ことほ)ぎの歌』12月14日(月)Bunkamuraオーチャードホール 開場18:00開演18時30分/特別ゲスト 山下洋輔、上妻宏光
    問い合わせ:東京音協03-5774-3030(平日11:00~17:00)http://t-onkyo.co.jp/

    林英哲コンサート2015
    2015年12月20日 沼津市民文化センター小ホール 開場17:00開演17:30
    問い合わせ:イーストン055-931-8999

    『2016年演奏活動45周年 林英哲 新春スペシャルコンサート2016』
    2016年1月3日 大阪・森ノ宮ピロティホール 12時開場13時開演
    問い合わせ:キョードーインフォメーション0570-200-888

    2016年2月フランス・ナント市で開催されるラ・フォル・ジュルネ出演予定

    2016年11月1日(火)サントリーホールで林英哲演奏活動45周年記念公演、東京公演が決定。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/