スタジオに、彼によく似た顔の、華奢な体つきの女性ダンサーがいた。彼女は、大貫の母親でダンス教室を経営している。勇輔を一人前のダンサーとして育て上げたのもこの人だ。

 子どもの頃の勇輔はどんな子だったのか?

「小学校までは、悪かったですね(笑)。ダンスにもどこまで興味があったのか。発表会の日も隅っこでゲームしていたり。いたずらも数知れずで、あるとき、女の子を蹴ったんですよ。それで丸坊主にしました」

 母親のコメントを、大貫は黙ってにやにやしながら聞いていた。このままでは本当に札付きの不良になってしまうことを心配した母親は、別の中学校への転校を実行する。母親の英断だ。大貫は母親のことになると、真面目な優しい顔をする。

「母親は人格者です。素晴らしいダンサーでもあります。ぼくを生んですぐにリウマチで車いす生活になってしまったことがあるんです。でも一緒に踊ろうと頑張った。高1のとき、一緒に踊れるようになって、それから毎年1年に一度、ダンススタジオの発表会では一緒に踊ります。一緒に踊ることで、生徒さんたちのなかでも親子ダンサーが増えているんですよ」

 母親の由紀子さんは、オールドスタイルのジャズダンサー、名倉加代子氏に師事、現代舞踊の名手である。大貫勇輔もモダンダンスから入り、クラシック、ヒップホップと踊りの幅を広げていった。

  • 出演:大貫勇輔

    1988年神奈川県生まれ。7歳よりダンスを始め、17歳からプロ・ダンサーとして数々の作品に出演。ジャズ、バレエ、ストリート、アクロバット、コンテンポラリーなど多岐にわたるジャンルのダンスを踊りこなす。ドラマやCMへの出演も多く、昨春、舞台『キャバレー』で藤原紀香の相手役を務め、話題になる。7月11日~15日、東京渋谷Bunkamura オーチャードホールで上演される『ドリアン・グレイ』(マシュー・ボーン演出)で主役を演じる。

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太